ユメのカタチ‡APH‡

□ある日曜の午後
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ローデリヒは視線を本に向けたまま、ふとエリザベータの名を囁く。
「楽しいお茶会にしましょう」



「…ふぅ、終わりました…」
ローデリヒは息を吐き、ペンを置いた。
全く同じ文面の招待状を人数分書き終え、疲れた手首を揉みほぐしながらなんとも言えない達成感と充実感を味わった。

「そういえば、まだみんなに知らせてないわ」
エリザベータがカレンダーを見ながら呟く。
「招待状は出しておきました」
ローデリヒは軽く咳ばらいをして言う。
「…ありがとうございます、ローデリヒさん」
エリザベータはお礼を述べ、少し困ったような、心配しているような表情を浮かべる。
「…わざわざ招待状を書かなくても電話でお知らせしてよかったのでは…?」
「紙のほうがより確実でしょう?」
手元のポットからカップにお湯を注ぎ、紅茶を淹れる。
「その、人数分手書きで書くの大変、じゃないですか?」
エリザベータの分の紅茶も淹れ、エリザベータの前に置く。
二つのカップから甘いリンゴの香りが立ち上る。
「エリザ…少しでも手間を惜しんではいけませんよ」
ローデリヒはカップに口をつけ、優雅に紅茶を飲む。
「…はい」
エリザベータはローデリヒに諭されて頷く。
「…実は私も、今さらながら、ファックスにしておけばよかったと少し後悔しているところです」
ローデリヒはカップを置き、苦笑した。



大きな音を立ててドアを蹴破るように部屋に入ってきた人物を、ルートヴィッヒは怒ろうとしてやめた。
両手をぱたぱたと動かす青年を見て、脱力する。
「フェリシアーノ…ドアは大切に扱ってくれ」
「ルート、ルート〜!遊びにきたよ〜」
ルートヴィッヒの話を全く聞いていないフェリシアーノはのんびりとした声を出して、ルートヴィッヒの周りをぐるぐると回る。
「…お前仕事はどうした。ちゃんと終わらせてきたのか?」
ルートヴィッヒは軽くこめかみを揉み、意外にすばしっこいフェリシアーノに問う。
「兄ちゃんがやってるから大丈夫だよ!」
どう大丈夫なのか。
この兄弟は揃って己に甘いところがある。
こいつの兄、ロヴィーノも…いや、今ごろぶつぶつと文句を言いながら仕事をこなしているだろう。
期限ギリギリに終わらせるが、やろうと思えば素晴らしく仕事が早いのも兄弟揃ってだ。
なぜもっと早めにやらないのかと、毎度思う。
「ねぇねぇ、さっきから何見てるの?」
ルートヴィッヒが書斎の椅子に腰掛けると、フェリシアーノはルートヴィッヒが読んでいる便箋を脇から覗く。
「なになに…あ、これ俺のところにも届いてたー」
フェリシアーノはルートヴィッヒの肩から身を乗り出して便箋を指差す。
「ルート行くの?」
フェリシアーノは朝風呂で湿ったルートヴィッヒの髪を弄りながら尋ねる。
「まだ決めてない」
ルートヴィッヒは便箋を開いたり閉じたりして答える。
はっきり言えば、行っても行かなくてもどっちでもいい。
…が、こういう機会は滅多にない。たまには行ってみるのもいいかもしれない。
「ローデリヒさんが作ったザッハトルテ食べられるよ!」
頭の中がお菓子で埋め尽くされたフェリシアーノは、ルートヴィッヒの耳の近くではしゃいだ声を出す。
「ザッハトルテを作るとは限らんだろう」
ルートヴィッヒは片耳を塞ぎ、否定する。
「…お前は行くのか?」
なんとなく答えはわかっていたが、尋ねてみた。
「うん!食べる…じゃなかった、行くよ〜」
もっちろんと、フェリシアーノはピースをびしっとルートヴィッヒのほうへ突き出す。
「ねぇルートも行こうよ〜」
ルートヴィッヒの服を両手で掴み、ぶんぶんと手を振る。
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