ユメのカタチ‡APH‡

□ある日曜の午後
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ある日の昼下がり。
「あの、ローデリヒさん」
エリザベータはベランダに置かれたベンチで読書をしているローデリヒを控えめに呼ぶ。
涼しい風に当たりながら本に没頭していたローデリヒはゆっくりと視線を上げる。
「なんです、エリザ?」
本を閉じ、エリザベータのほうへ向き直る。
「今度の日曜にみんなで…お茶会しませんか?」
エリザベータはローデリヒの隣に腰掛け、合う言葉を探して少し考えながら提案する。
「お茶会、ですか?」
きょとんとして首を傾げるローデリヒを見て、エリザベータは慌てる。
「ええと…、別にお茶は飲まなくてもいいですけど…」
意味不明な返答になってしまった。
「お茶を飲まないお茶会ですか…斬新ですね」
ローデリヒは理解に困ったが、できるだけ優しく言う。
「あ、いえ、その…」
上手い言葉が見つからず、エリザベータは口ごもる。
「…みんなをここに招いて楽しく過ごせたらなと思いまして…あ、ホームパーティーみたいな…?」
エリザベータはしどろもどろになりながら、なんとか自分の考えを伝える。
ローデリヒはやっとエリザベータが言いたかったことを理解した。
「そうですね、たまにはそういうのもいいのではないでしょうか」
エリザベータの提案にローデリヒは頷く。
「ありがとうございます」
ぱっと顔を輝かせ、エリザベータはうれしそうに笑う。
「招待する方はどなたを考えていますか?」
「ええと、リヒテンちゃん、バッシュさん、ルートヴィッヒくん、あと呼べたらフェリシアーノくんも…それぐらいでしょうか」ローデリヒに尋ねられ、エリザベータは指で数えながら頭に浮かんだ人物を言っていく。
ローデリヒは本のページに挟んでいた小さな紙を抜き取る。
ベストの胸ポケットからペンを取り出し、エリザベータが言っていった名前を書き留めていく。
紙に名前を書き終えるとペン先を止め、エリザベータに視線を向けた。
「…一人忘れていますよ」
ローデリヒはぽつりと呟く。
エリザベータは完全に忘れ去っていた一人を思い出し、顔をしかめた。
「あいつも呼ぶんですか!?」
納得がいかない様子のエリザベータにローデリヒは溜息混じりに言う。
「仲間外れだの、差別だの、また後々まで言われるのは嫌ですからね」
たしかにそれはある。
ギルベルトの面倒なところは異常なまでの粘着さだ。
覚えている限りねちねちと言い続ける。何十世紀も前のことを掘り返してきたときは呆れるのを通り越して感心してしまった。
「多少の不安は拭えませんが、案ずるほどのことはありません」
はっきりと言うローデリヒをエリザベータは頼もしく感じた。
そう願いたいですと、ローデリヒは少し間を開け、自分自身に言い聞かせるように、エリザベータに聞こえないくらい小さく呟く。
そうですよね…と、エリザベータも曖昧にポジティブ思考でいくことにした。
あいつが何にもトラブルを起こしませんように。
あいつのことだから絶対何かしらしでかすという思いを胸の奥にしまい込み、エリザベータは願う。
「何か手伝えることがあったら言ってください」
本を開いてページをめくりながら、ローデリヒは言う。
はい、とエリザベータは頷き、計画を練り始める。
「早速ですが、ローデリヒさんはケーキを焼いてもらえませんか?」
エリザベータがお願いするように首をやや傾けると、緩くウェーブのかかった栗色の髪が肩からさらりと揺れ落ちる。
「どのようなものがよいです?」
「…フルーツが入っているのがちょっと華やかでいいと思います」
エリザベータは少し考え、思うことを述べる。
「ローデリヒさんにお任せします」
「わかりました」
ローデリヒは微笑みながら頷き、紙にケーキ、フルーツ入りと書き足す。
ペンを胸ポケットに戻し、また視線を本に移す。
心地よい風が二人の間を吹き抜けた。
「エリザ」
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