賢者の石
□第8章
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ニコラス・フラメルのことを知った翌朝、“闇の魔術に対する防衛術”の授業で、狼人間に噛まれた傷の様々な処置法についてノートをとっていた。
リョウとハーマイオニーの前の席で僕とロンは“賢者の石”を持っていたらどうするかを話していた。
ロンが自分のクィディッチ・チームを買うと言ったとたん、ハリーはスネイプと試合のことを思い出した。
「僕、試合に出るよ」
僕は振り返る体勢で私たち3人にそう言った。
「出なかったら、スリザリンの連中はスネイプが恐くて僕が試合に出なかったと思うだろう。目にもの見せてやる………僕たちが勝って、連中の顔から笑いを拭い去ってやる」
「グラウンドに落ちたあなたを、私たちが拭い去るようなハメにならなければね」
とハーマイオニーは言った。
『大丈夫よ。ハリーだもん。私どれだけハリーの練習を見てきたと思ってるの?』
だがリョウだけは笑顔で僕を応援してくれた。
リョウの笑顔は人を癒やす特殊な力があるんじゃないかと思った。
僕はありがとう、と言うと前に向き直った。
「リョウって人を励ますのが得意なのね」
リョウの隣に座るハーマイオニーが呆れた様子で言ったを聞いた。
『私は本当のこと言っただけ。ハリーを信じてるんだよ』
聞こえてきたリョウの言葉にまた僕は嬉しくなった。
次の日の昼過ぎ、リョウとロンとハーマイオニーは更衣室の外で「幸運を祈る」と僕を見送った。
果たして再び生きて自分に会えるかどうかとロン達が考えていることを僕は知っている。
リョウを除いては。
…どうも意気が上がらない。
ウッドの激励の言葉もほとんど耳に入らないまま、クィディッチのユニフォームを着てニンバス2000を手に取った。
――ハリー…!はぁりぃー
更衣室の外から微かに声が聞こえる。
どうやら僕を呼んでるらしい。
『ハリー……………聞こえないのかな……?』
あの声はリョウだ。
僕は小さく笑って外に声を掛ける。
「開いてるよ。入って」
『ぅえっ!?はは入れないよ!男子更衣室だよ!?』
もちろん今更衣室にいるのは僕だけだ。
一人外でワタワタしてるんだろうなーと思うとまた笑ってしまった。
日本人ってみんなあんなにピュア何だろうか。
僕は目に溜まった涙を拭いながら、更衣室のドアを開ける。
『むー。笑う前に早く開けてよ。せっかく応援しに来たのにさ』
頬をほんのり赤めて口を尖らせている。
「ごめんごめん!悪気はなかったんだよ?」
謝罪の言葉を口にするが、我ながら全く言葉に見合った態度ではなかったと思う。
何せまだ笑いを止めきれないでいたのだから。
いまいち納得しきれていない様子だったが『まぁいいや』と口にすると、満面の笑みを僕に向けた。
『ハリーにこれあげる』
リョウはポケットを弄(マサグ)ると、僕の手をとって何かを握らせた。
指を開いてみると、赤い布に何か不思議な模様が書かれ、紐のついた小さな巾着みたいなものだった。
「これ何?」
『私が持ってたお守り。安産祈願の』
リョウはヘンな模様を指でなぞる。
これは日本語で“安産祈願”と書かれているらしい。
「僕は何も産まないよ」
『ま、間違って買っちゃったんだもん!私の気持ちはバッチリ送り込んでおいたから。安全の方で』
安全と安産を間違って買うなんて流石はリョウ、と思いながらお守りを受け取る。
「ありがとう。ちょっと気持ちが楽になった」
『うん!頑張ってねハリー』
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