賢者の石

□第12章
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「君はこの子達に何を話したんですか?フィレンツェ、忘れてはいけない。我々は天に逆らわないと誓った。惑星の動きから、何が起こるか読み取ったはずじゃないかね」

ベインが唸るように言った。

「私はフィレンツェが最善と思うことをしているんだと信じている」

ロナンは落ち着かない様子で、蹄で地面を掻き、くぐもった声で言った。

「最善!それが我々と何の関わりがあるんです?ケンタウルスは予言されたことにだけ心を持てばそれでよい!森のなかでさ迷う人間を追いかけてロバのように走りや回るのが我々のすることでしょうか!」

ベインは怒って後ろ足を蹴りあげた。

『きゃ!』

フィレンツェも怒り、急に後ろ足で立ち上がったので、私もハリーも振り落とされないように必死に彼の肩につかまった。

「あのユニコーンを見なかったのですか?」

フィレンツェはベインに向かって声を荒げた。

「なぜ殺されたのか君にはわからないのですか?それとも惑星がその秘密を君には教えていないのですか?ベイン、僕はこの森に忍び寄るものに立ち向かう。そう、必要とあらば人間とも手を組む」

フィレンツェがさっと向きを変え、私たちは必死で背にしがみついた。

ロナンとベインを残し、木立の中に飛び込んだ。

「どうしてベインはあんなに起こっていたの?君はいったい何から僕らを救ってくれたの?」

フィレンツェはスピードを落とし、足並みになった。

低い枝にぶつからないよう頭を低くしているように注意をしたが、ハリーの質問には答えなかった。

黙ったまま進んだ私たちだったが、ひときわ木の生い茂った場所を通る途中、フィレンツェが突然立ち止まった。

「ハリーポッター、ユニコーンの血が何に使われるか知っていますか?」

「ううん」

ハリーは突然の質問に驚いた。

「角とか尾の毛とかを魔法薬の時間に使ったきりだよ」

「あなたは知っていますね。リョウトビカイ」

フィレンツェは前を見たまま聞いた。

『ええ、知ってる。ハリー、ユニコーンを殺すことは非常きわまりないことだと言われててね、これ以上失うものは何もない、しかも殺すことで自分の命の利益になる者だけが、罪を犯す』

「どういうこと?」

『ユニコーンの血は死の縁にいるときだって命を長らえさせてくれる力があるんだよ。その代わり恐ろしい代償を払わなければならない。自らの命を救うために、純粋で無防備な生物を殺害するんだから、得る命は完全なものにはならないの…』

「その血が唇に触れた瞬間から、そのものは呪われた命を生きる、生きながらの死の命なのです」

フィレンツェの髪は月明かりで銀色の濃淡を作り出していた。

ハリーはその髪を後ろから見つめた。

「いったい誰がそんなに必死に?永遠に呪われるんだったら、死んだ方がましと思うけど。違う?」

「その通り。しかし、他の何かを飲むまでの間だけ生き長らえればよいとしたら――完全な力と強さを取り戻してくれる何か――決して死ぬことがなくなる何か。ポッター君、今この瞬間に、学校に何が隠されているか知っていますか?」

「"賢者の石"――そうか――命の水だ!だけどいったい誰が……」

『誰かわかるでしょう、ハリー…。今の今までひっそりと静かにチャンスをうかがっていた…今にも消え入りそうな命を抱えて』

「あ――それじゃ…僕が見たのはヴォル……」

「リョウ!ハリー、あなた達大丈夫?」

ハーマイオニーが道の向こうから駆けてきた。

ハグリッドもハァハァ言いながらその後ろを走ってくる。

「僕は大丈夫だよ」

『私も平気。ハグリッド、ユニコーンが森の奥の開けたところで死んでいたわ』

「ここで別れましょう。君たちはもう安全だ」

ハグリッドがユニコーンを確かめに急いで森の奥へ戻っていくのを見ながら、フィレンツェが呟いた。

ハリーが背から滑り降り、ハリーの手を借りて私も滑り降りた。

「幸運を祈りますよ。ケンタウルスでさえも惑星の読みを間違えたことがある。今回もそうなりますように」

『ありがとう』

フィレンツェは森の奥深くへ緩やかに走り去った。

私はブルブル震えるハリーの腕にそっと触れた。



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