短編

□落ち着く
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「…」

「ニャ〜オ」

久しぶりに暇ができたのでフジ井家の家に遊びに行くと、見たことのないトラ猫がクロの指定の位置であるはずの場所でくつろいでいた。
私に気付いたトラ猫は一鳴きすると私の足元に自分の顔をすりすりとすりつけてきた。
くすぐったいし、歩きにくいんだけど…。

「きみはどこから来たのかな?」

「ニャ〜」

私がトラ猫にそう訊いてもトラ猫は楽しそうに目を細めて鳴くだけで何も答えてはくれなかった。
まぁ、普通猫が喋ったら怖いけどさ。
喉をゴロゴロと鳴らしながらすり寄ってくるトラ猫を抱き抱えて縁側へと座る。
ちょこんと膝の上に寝転び、甘えるような瞳で見つめてくるトラ猫の喉を撫でながらのんびりとそよぐ風に前髪を遊ばせていた。
すると、

「おーいマタタビー、剛がお前に用があるって…」

「…。」

喉を撫でる手を止めずに声のした方へと振り向くと、そこにはめんどくさそうに頭をかきながら二本足でやってきた猫の姿があった。
いまいち状況が飲み込めない私は呆けた顔をしながらただただ二本足で突っ立っているクロを見つめた。
クロの方も、どうやら私が居るとは思わなかったみたいで目を見開いて固まっている。

「悪いなキッド、拙者はこのお嬢さんの相手をするのに忙しいんだ」

しばらく無言状態が続いた後、口を開いたのは私でもクロでも無く、膝の上で寝転んでいたトラ猫だった。
トラ猫は私の上からひょいと飛び退いてクロのところまで二足歩行で歩いて行くと放心しているクロの目の前でパン!と大きな音を立てて両手を合わせた。

「うおっ!」

「ほら、しゃきっとしろ、しゃきっと!」

そして、マタタビと呼ばれたトラ猫はクロに何かを耳打ちした後後ろ手にひらひらと手を振りながら何処かへと去ってしまった。
何言ってたんだろ?そもそも何で猫が二足歩行で歩いて喋ってんの?キッドってクロの事、だよね?

「おい」

「!!」

一人で考え込んでいた私に向かってクロは遠慮がちに声をかけた。
そして私の隣りに腰かけると何処か遠くを見つめ始める。

「おいらな、実はサイボーグなんだ」

「サイボーグ・・・」

意を決したような表情をしたクロの言葉をオウム返しすると、クロはゆっくりとうなずいた。
車が行き交う音や雀の鳴き声など、普段なら日常的な音が聞こえるはずなのに、何故か今だけはクロの声以外聞こえてこない。

「フジ井さん達は知ってるの?」

「いや、おいらがサイボーグになったことは知ら無ぇはずだ」

「そっか。言わない方がいいよね?」

「ああ、そうしてくれると助かる」

私はおもむろに手を伸ばし、珍しく少しだけ暗い顔をしているクロの頭をぐりぐりと撫でた。
ああ、やっぱクロの方が落ち着くわ。なんかちょっと皮膚がごつい気がするけど。
いきなり頭を撫でられたクロは驚いて私の方を見たが何も言わずにただ無抵抗で撫でられているだけだった。

落ち着く

(そう言えばあのトラ猫は何で喋れるの?)
(さぁな、それはおいらも知らねー)
(・・・。)

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