短編

□信じ難い事実
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「リンってさ、よくあれだけ食べて太らないよね」
「え」

現世に任務に行った際に買ってきたお菓子を食べているリンを見ながら私はぼそりと呟いた。
リンは先ほどまでお菓子を持っていた手を止めてこちらに振り向いた。

「リンって見かける度に何か食べてる気がするからさー」
「そうですか?」
「うん」

持ってきたお茶を机の上に置きながら再びお菓子に手を伸ばし始めたリンをじっと観察する。

(見かける度にお菓子食べてんのに何で太らないのかな…)

上から下まで舐めまわすように見つめてくる私の視線が気になるのか、リンは再び手を止めてこちらを向いた。

「あ、の見られてると食べにくいんですが…」
「ああ、ごめん。私の事は空気だと思って食べてていいよ」
「そう言われましても…」

苦笑するリンを横目に見ながら私は机の上に置いてあるお菓子に手を伸ばし包み紙を剥がすとリンの口元に持っていく。

「はい、あーん」
「え、あ、あー…」

若干頬を染めながらあーんに応じてくれたリンに、にこっと微笑んでみると頬の赤みが先ほどよりも増した気がした。

「あ、そう言えばさぁ」
「はい、なんでしょう?」
「リンって胸無いよね」
「はい!?」

ガタリと音を立てていきなり立ち上がったリンは口をぱくぱくさせながら私の顔を見つめた。

「あれ、ごめん、気にしてた?」
「ち、違いますよ!」

首をぶんぶん振りながら全力で否定するリン。
そんなリンを横目で見ながら呑気にお菓子を頬張っていると、部屋の入口に僅かだが誰かの霊圧を感じて私は後ろを振り返った。

「あ、阿近さん」
「よう」
「阿近さん、こんにちはー」

リンは阿近さんを見つけると縋る様な視線を阿近さんに向けた。
そんなリンの視線に気が付いた阿近さんは少し眉を寄せてお菓子を食べていた私に目を向けた。

「おい、なんかリンが泣きそうな顔してるんだが」
「すみません、彼氏さんが上手く宥めといてください」
「は?」

はぁ、とため息をつきながら言った阿近さんに私が包み紙を剥がす手を止めずそう言うと、二人の声が綺麗に重なった。

「え、私何か変なこと言いました?」
「あの、阿近さんは彼氏じゃなくて…」
「え、じゃあ鵯州さんが彼氏さん?」
「違いますよ!っていうか何で女の子ってすぐそっちの方に持っていきたがるかな…」

私の言葉を全力で否定した後ぶつぶつと何か呟くリン。
阿近さんはリンに哀れむような視線を向けて私に視線を戻した。

「あのな、名無しさん何を勘違いしてるかは大体予想が付くが、」
「はい」
「リンは男だ」
「は、い!?」

薄暗い影を背負いながら机の上のお菓子を平らげているリンを阿近さんの顔を交互に見ながら私は驚きの声を上げる。

(リンが、男…?)

楽しそうにお菓子を頬張るリン。
若干頬を染めながらあーんに応じてくれたリン。
胸が無いと言われて明らかに動揺したリン。
が…男…

「男…」
「あはは…」

呆然としている私がリンに向けて指を指すとこちらを見て照れたように笑うリンと目が合った。

信じ難い事実

(やっぱり信じられないわ…)
(えー…)

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