短編
□看病
1ページ/1ページ
耳元で聞こえる水音に私は目を覚ました。
「あ、起きたですか?」
「ん、翠星石…。」
「もう少しゆっくり寝てろですぅ!」
身体を起こそうとした私に翠星石はタオルを絞りながらそう言った。
あれ、なんでここに翠星石がいるの?
「まったく自分の体調管理もできねーとは情けないやつですぅ。」
「あー…」
自分の服を濡らしながら懸命にタオルを絞る翠星石。
綺麗な緑色の服が水に濡れて色が濃くなっていた。
「服、濡れてるよ、翠星石。」
「服なんか後でどうにでもできるからいいんですぅ!それよりせーっかくこの翠星石が遊びに来てやったというのに風邪ひいて寝込んでるってどういうことですぅー!」
タオルを絞り終えた翠星石は私の額の上にそっとそれを置いた。
見なれたタオルだな、と思っていたらどうやら私のハンカチらしい。翠星石が持つとタオルに見えるのにな。
「…何笑ってやがるですか?」
「いや、何でもないよ。」
自分の子供に看病してもらってるように思えて少し口元が緩んでしまった。
「何考えてるか知らねーですけど翠星石に心配かけるんじゃねーですよ。」
「ん、ありがと、翠星石。」
「か、勘違いすんなですぅ!翠星石は早く名無しさんが良くなって皆でまたテレビ見たり遊んだりしたいなんてこれっぽっちも思ってねーですぅ!」
「あー、うん、そうだね。」
急に声を張り上げてベタなツンデレを炸裂させてくれた翠星石を軽く受け流す。
ごめん、今はちょっと静かにしていてくれた方が嬉しい。
「名無しさん、他に何かしてほしい事は何かないですか?」
「(リンゴ剥いたりするのは刃物使うから危ないよな…。とりあえず服着替えさせないと風邪引きそうだな。何かあったら桜田に文句言われるのは私だしなー…)」
「ちょっと!名無しさん!翠星石の話聞いてるですか!?」
「ごめんごめん聞いてるよ。えーと、じゃあタオル代えてくれるかな?」
「了解したですぅ!」
額の上で温くなったタオル(ハンカチ)を水に浸して二、三回絞ると私の額の上に戻す。
翠星石の力では絞り足らなかったのか、額の横を水滴が流れていく感覚がする。
「ん、ありがと。」
「早く良くなりやがれですよ。」
流れ落ちる水滴を自分のハンカチで拭いてくれる翠星石にお礼を言って私はゆっくりと瞼を閉じた。