□補習と俺とアイツと
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「…で、結局全力尽くして終わったのは夜ですかい」

「左近の車に乗るのは久し振りだな、煙草と左近の甘い匂いがするぞ」

「ねえ、ちゃんと聞いてます?ちょっと」

一分で出来るような
問題をわざとダラダラと
解いていく三成に
左近は何度机を
ひっくり返そうと
思ったか分からない。

最終的には外は
真っ暗になり、
徒歩通学の三成を
こんな夜中に歩かせて
帰るのも目覚めが悪い。
左近は仕方なく
車の助手席に三成を
乗せていた。

自分もつくづく甘いなと
思いながら左近は
苦笑いを浮かべる。

「左近、煙草を変えたのか?」

「え?ああ、まあ…よく分かりましたね」

「お前の事はなんでもお見通しだ」

「それは結構ですが教師をお前呼ばわりしない!」

左近の車に乗ったのは
ほんの数回なのに
何事にも無関心なようで
よく見ている。

左近は感心したが
三成にとってはそれは
左近限定であり他に
興味はなかったりする。

そんな微妙な
すれ違いをしながら、
三成の家の前に
車は止まった。

「世話になったな」

「本当ですよ」

ぐったりとする左近に
三成は車から
降りながら薄く笑った。

そしていきなり
真面目に深々と
左近に頭を下げた。

「さようなら、島先生」

「…さようなら」

ぽかんとしながらも
声を振り絞りそう返すと
三成は満足そうにして
踵を返し家の中へと
消えた。

「島先生、ねえ」

自分でそう呼べと
言ったくせにいざ
三成に言われると
妙な違和感と
物足りなさと
寂しさを感じた。

有り得ない、と
慌てて首を振って
その考えを振り払う。
早く帰って酒でも飲んで
忘れてしまおうと左近は
アクセルを踏んだ。





補習

アイツ


(なにを忘れたいのかも分からないまま)










 
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