□不器用と曖昧笑顔
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赤い髪をゆらゆら揺らしながら、戦場を舞うその姿を左近は純粋に美しい、と思った。
現に顔だって整っているし、その作りは女にも間違えられる。
体は細く肌も白い。
本人はそれを酷く気にしているようなので言葉には出さないが。

次々と敵を薙払っていく自分の主を遠目に見ながら左近も最後の一人をやっと倒した。
しかし休んでいる暇はなく直ぐに主の元へと走り出す。

「殿!加勢いたしますよ」

「左近、」

三成は走ってくる左近に気付いた途端、嬉しそうに柔らかな笑みを浮かべた。
左近はこの顔を自分以外にも見せてくれたらさぞ人間関係も安定するだろうにと苦笑いした。

三成まであと数歩の所だったその刹那、ひゅんと音がして左近が空を仰ぐと5、6ほどの矢が三成へと急降下していくのが見えた。

「殿!」

三成はそれを気付いているのか気付いていないのか分からない。
表情を伺う余裕もなく、左近はとにかく全力で走った。
次には力任せに三成を突き飛ばし、左近は体に走った小さな痛みを感じた。



―――――――――



「俺も見くびられたものだな」

「…すいません」

あの後、弓が2本左近の体を掠め、他は地面に刺さっただけで事は済んだ。
戦も無事に勝利と終わって左近と三成は佐和山の城の部屋にて向かい合っていた。

「お前らしくない行動だったぞ。俺があの弓に気付かない鈍感な奴だと思っているのか?」

「…すいません」

「全く…お前に突き飛ばされたおかげで地面にも顔面から着陸してしまったではないか」

「…すいません」

「左近?」

いつもはなにか軽い口調で反論してくるのに、左近は俯いたまま謝罪しかしてこない。
三成は不審に思い、左近に手を伸ばすと同時に左近が顔を上げた。
その表情は苦しさと切なさと安堵が入り交じったような複雑なもので、三成は一層困惑した。
左近は目を合わせようともしなかったが、眉を寄せて唇を噛み目元が少し赤い。

「左近…」

「殿、左近は殿の為だけに命を懸けているんですよ。たとえ矢の一本でも、触れさせたくはない。それに、」

「…それに、なんだ」

「殿は美しいですから」

やっと目を合わせた左近を見て三成は薄く笑った。

「(きっと、お前は気付いていないのだろうな)」

さらり、と癖のない漆黒の髪が左近の肩を滑り落ちて行く。
鋭く貫くような瞳が笑った時だけは柔らかく細められる。
年を感じさせないような鍛えられた体や意外とすぐに赤くなる頬に三成はどれ程触れたいと思ったか。

「(お前も又、美しい)」

そう言えば左近はどんな顔をするだろうか。
また憎まれ口を叩くのだろうか。
三成は自然と口許が緩んだ。
それを見て左近は首を傾げながらも「なに笑ってんですか」といつもの調子に戻っていた。

「(いとおしい、)」

三成は声には出さずにそう繰り返しながら左近の髪に指を滑らせ、笑った。





不器用と
曖昧笑顔


(左近、お前が美しいと言ったこの顔をお前が顔面着陸させたのを忘れるな)
(さあ、なんの事です?)









 
 

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