□花宵こよなし
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「左近殿は、自覚が足りません」

「…はい?」

いつも通りに激しかった
情事の後の風呂の中、
気だるい体と痛む腰。
年の差があることを
忘れないでほしいと
内心で毒づいていると
隣で湯に浸かっていた
いつも大人しいくせに
時々腹黒く戦と情事には
熱血で激しい年下の
恋人である真田幸村に
突然そう言われた。

キョトンとしていると
幸村は呆れたような
溜め息を盛大に吐いて
俺を強い眼差しで射抜く。

「私以外を誘惑したり煽ったりしないでください」

「…え、いや、…は?」

言い直した幸村の言葉は
俺を一層混乱させた。
いつ誰に俺が誘惑したり
煽ったりしたって?
訳が分からなくて顎に
手を添えて考えていると
痺れを切らした幸村が
俺の背後に回り込み
壁に押さえ付けてきた。

ひんやりとしたタイルが
頬に当たって熱い体には
まだ気持ちいい。
しかし残念なことに
下半身はあまり良い
状況ではなかった。
幸村の手が湯の中で蠢き
腹筋を撫でている。

「ゆ、幸む…っ」

「そうゆう所の自覚が足りないといってるんです」

慌てて幸村の手を掴むが
後ろから耳朶を噛まれ
びくりと息を詰めた。
幸村に慣らされた体が
今物凄く恨めしい。

「湯の中でするのはお嫌いでしたよね?」

「…っ、なん、で」

「お仕置きですから」

そんな理不尽な。
首を捻ってなんとか
幸村を見ればその目は
もう完全に戦の時の
まっすぐに燃える
若者の目でーーー…。

俺はそれを見た瞬間
逃げる気力を無くして
もうどうにでもなれと
掴んでいた幸村の手を
ゆっくりと離した。




花宵こよなし

(若者には敵いません)








 
 

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