□もう重症だ
1ページ/2ページ




「左近!」

放課後になり、仕事も片付いたので帰りの支度をしているといかにも不機嫌そうに名前を呼ばれたので、左近は口許を無意識に引きつらせた。
恐る恐る職員室の開いたドアを見れば仁王立ちしている三成が案の定いる訳で。

こんな時は決まって三成はロクな事を言わない。

ほとんどの教員が部活の顧問や出張やらでいないが、まだかすかに残っている教員達に何かしら聞かれたら不味い。

「お、お疲れ様でしたあああ!」

三成がなにか言おうと口を開く前に左近は鞄を掴んで職員室を走り出た。
そこにいた三成の腕を掴んで引きずるようにとにかく必死に人出のない所まで行った。

「左近」

「はあ…はあ…なんなんですかアンタは!いつも下駄箱で待ってて下さいって何度も…、」

「抱かせろ」

ああ、ほら、やっぱり。
ロクな事言わない。
左近に一層引きつる口許を押さえる術はない。
三成の凜とした鋭い瞳がじっと見つめてくる。
人気のない所に来てしまった失態を左近は酷く嘆いた。

「…学校ですよ」

「それがどうした。朝に約束しただろう」

「今夜だと言ったじゃないですか」
 
「夕方も夜も一緒だ。抱かせろ。今すぐにだ。それともお前は約束もロクに守れないのか」

ロクな事を言わないアンタに言われたくない、と左近は内心舌打ちしたが約束した事はしたし、実際ネクタイの件も助かった。
自分の代わりに三成は沢山の教員に叱られた事だろう。

「左近」

ぐい、と腕を引っ張られて耳元で今度は甘い声が流れ込む。
ああ、自分も重症だな、と左近は笑った。






 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ