□補習と俺とアイツと
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この糞餓鬼め。

左近は喉まできている
その言葉を飲み込むのに
必死だった。

放課後の教室に一人の
生徒と一人の教師が
机一つ分の距離を置いて
向かい合っている。

赤茶の髪の色をした
生徒、石田三成は
余裕そうな笑みを
浮かべて教師である
島左近を上目遣いに
見ている。
机の上にぺらりと
置かれている問題の
並ぶ紙には一切
興味などない。

その視線を
受け流しながら、
左近は全く動こうと
しないシャーペンを
握っただけの三成の
手を見ていた。

あまりに長い
沈黙だった。

開いた窓の外から
聞こえる野球部や
テニス部の掛け声が
唯一の救いだったが、
先に耐えられなく
なったのは
左近の方だった。

左近は盛大に
溜め息を吐いて
ネクタイを指で
ぐいっと引っ張り、
三成を睨んだ。

「いい加減にしてもらえますかね、三成さん」

「なんの話だ、左近」

「…島先生、でしょう」

「今更そんな堅苦しい呼び方など出来ん。左近、お前と俺の仲だろう」

「生徒と教師の仲だからこそなんですがね…」

相変わらず偉そうに
踏ん反り返っている
目の前の生徒に
左近はまた溜め息が
込み上げるのを感じた。

「それに…今回だって三成さんだけが再テストで補習なんて有り得ませんな。あの幸村でも解けた問題ですよ?アンタが解けない訳がない」

「俺にだって間違える時ぐらいある」

「だからって白紙で出す馬鹿がいますか」

「名前は書いたぞ」

「同じですよ」

何故か得意げに
笑っている三成に
今度は頭痛がした。
小テストをして
平均点以下は担当である
島左近と放課後補習、
だなんて言うんじゃ
なかったと今更ながら
後悔する。

そうクラスに伝えた
瞬間に嫌がったり
焦ったりとざわつく
生徒の中で、三成だけが
大袈裟に反応した
(特に島左近と、の所)
のを見てまさかとは
思っていたが…
本当にそうなるとは
悪夢だった。
まだ動く気配のない
手をちらりと見て
左近は舌打ちした。

「本当は出来るんでしょう?さっさと終わらせて下さいよ」

「なんだ…バレていたのか」

「バレバレすぎです。全く、そんな理由で…成績にも響くんですからもうしないで下さいよ?

「俺は左近と二人きりになりたかっただけだ」

「…ほら、早く書かないと日が暮れちまいますから」

流された、と三成は
思いながらも自分を
心配してくれている
左近がとても
愛しかった。




 
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