□きっと手遅れだ
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「よう、オッさん」

ぽーんと上から
投げられた言葉に
伏犠は顔を上げた。
そこには生い茂る
緑の木があって、
次の瞬間にはガサガサと
一匹の猿が降りてきた。
というか、落ちてきた。

「ぬあああ!!」

覆い被さるように
すぐ上に落ちてきた
猿によって伏犠は
あっという間に
地面に転げた。
草で地面が少しだけ
柔らかかったのが
せめてもの救いだ。

強く背中を打ってしまい
呼吸が浅くなり
思わず咳き込むと
真上から面白そうな
笑い声が聞こえた。
薄く目を開いて
伏犠はそれを睨む。

「悟空っ…!!いきなりなにするんじゃ!!」

「うるせえよ、相変わらず色気のない悲鳴上げやがって」

いつもの余裕気な
笑顔を浮かべている
悟空がいつもの悪態を
吐きながらしっぽを
ユラユラ揺らしている。

まさか上から
襲われるのは流石に
予想外だったが
伏犠は今日も悟空は
いつもどおりだと
安堵した。

「なに笑ってんだよ、気持ち悪い」

「五月蠅いわ。それより早く退け」

「つれねえなあ」

「悟空!」

「…へいへい」

悟空はダラダラと
伏犠の上から退いた。
それを確認すると
伏犠は飛び起きて
服についた泥を
うんざりした表情で
手ではたいた。

「全く…相変わらずお主は年寄りにも容赦ないのぅ」

「アンタなら平気だろ?」

「平気な訳あるか!腰が痛くて敵わんわ!」

「あー悪かった悪かった」

「棒読みの平謝りなんかで許せるか!」

ギャンギャン喚く仙人に
やっぱり元気じゃんと
悟空は笑った。

「なにを笑っておるんじゃ、気持ち悪い」

「アンタには負けるよ」

「どういう意味じゃ!」

また伏犠が喚き散らす
その前に悟空は
その口を口で塞いだ。
舌で歯をなぞると
びくりと伏犠の肩が跳ね
始めてでもないくせに
目を堅く閉じて
真っ赤になっている。

「(やっぱ…飽きねえな、このオッさん)」

悟空はなんだか
無性に嬉しくなって
口付けを深くした。

「んっ…は、あ」

なんだかんだ言って
悟空に答えようと
必死に舌を絡ませる
伏犠が愛しくて
何度も角度を変えた。
口付けの合間に
漏れる甘い吐息にさえ
溶かされる感覚。

「は、悟空…」

唇を離すと溶けた
バターみたいな
目をした伏犠がいて
本気で犯すぞこの野郎と
悟空は心で呟いた。

「なあ、オッさん。それ無意識なら直した方がいいぜ」

「…っ?」

伏犠は無意識らしいので
余計に質が悪い。
首を傾げて上目遣いも
きっと無意識だ。
悟空は乱暴に
頭をかきながら
大きく溜め息を吐いた。

「もし相手が俺じゃなかったらどうすんだよ…」

悟空の小さな呟きは
やっと我に返り
慌て出した伏犠には
届かなかった。









きっと手遅れだ

(ある昼下がり、猿と通りすがりの仙人のお話し)












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