「ツワブキダイゴは…!」
ポケモンリーグの片隅、そこで私はしゃがみこんだ。先程見たあの光景に震えながら。
「ツワブキダイゴは…吸血鬼だったんだ…!」
リーグチャンピオンへの旅路に時々現れたあの男、旅先では随分とお節介を焼いてくれた。助かることが多かったけれど、「やあ偶然だね。」と言うあの言葉に苦笑していた。だってそうだろう、私が目的地へと進む道などわかっているのだから、狙えばいくらでも"偶然"が起こせるのだから。
能天気な私は、もしかしてダイゴさんは私が好きなのかも…なんて思っていた。そして万更でもない気持ちになっていたのだ。
ところが、彼が欲していたのはどうやら私ではなかったらしい。
ようやく何度目かの挑戦でミクリさんを打ち破り、チャンピオンロードをぼろぼろになりながら突破し、いざリーグへとそう思ったその時、休憩室の一角から見える関係者以外立ち入り禁止の扉がうっすらと開いていたのだ。
勿論、覗くつもりなどなかった。けれど、「ダイゴさん…っ」と短い、悲鳴のような声が聞こえ、私は引き寄せられるようにふらふらとその扉を覗きに行ったのだ。そうして、見てしまった光景。
女の人の首筋に噛み付くダイゴさん、何かを嚥下する様に動いた喉、僅かに赤く染まった口唇、煌めいた八重歯。
ダイゴさんが口を離すと、気を失った女性が彼に寄りかかる様に倒れた。
私は、走った。ポケモンセンターにポケモン達を預けたまま、とにかくリーグの敷地の端まで。ツワブキダイゴが、吸血鬼。その衝撃に震えながら。
その後、恐る恐るポケモン達を迎えに行ったが彼に会うこともなく、また、あの扉もきちんと閉まっていた。
夢だったんじゃないか?そう思ったけれど、未だにある寒気がそれを否定する。
ツワブキダイゴはSMがお好き。そう、これだ。彼はちょっと性癖があれなんだ。これでいこう。顔よし、頭よし、御曹司。そんな彼の唯一の欠点は性癖があれなこと。オールライト!
ダイゴ おんぞうしポケモン
てきを みりょうする イケメンだが
せいへきが あぶないので
ちかよると きけん
オールライト!
と言う訳で私は彼のことなどすっかり頭の片隅に追いやって、リーグに挑戦した。
今のところ上々。プリムさんカゲツさん、フヨウさん。そして数分前、ゲンジさんを何とか破った。シャワーズのボールを撫でて、進む。残すはチャンピオン。どんなポケモンを使ってくるんだろう?どんな戦い方をするんだろう?
このホウエンの頂点との対決。その土俵に上がることをずっとずっと、夢見てきた。滲む涙を拭う。泣くには、早い。勝っても負けてもきっと泣くんだろうから。
薄暗い通路の先、ライトアップされた部屋が見える。さあ、行こう。全力を尽くすんだ。
カッカッ、部屋に入る。俯いた視線を、床から前───…
「……な、」
そんな、まさか。嘘。
反射的に浮かぶ言葉は否定語。だって、おかしい。
…いや、大きな衝撃で思考が眩んでいたが、そうだ、ここはリーグ。関係者以外立ち入り禁止の先にいたなら、関係者なのだ。
彼──ツワブキダイゴは、そのぱっちりとした美しい目を細め、微笑む。鋭い八重歯がライトの下で輝く。
「やあ、偶然だね。」
(言いたい事は後にして、)
(全力でおいで。)
「…当然です!」
101201
何か、普通だな…いや、
普通じゃないけど色モノだけど…
この後は絶対すすまないなあ…