らばーひーろー

□遥かな今日を、生きるひと
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差出人の名前は、かつて俺が小学六年生だった時の担任。




なんで――だとか、


どうして、だとか。




そんなことはどうでもよかった。



懐かしさも何もない、こみ上げるものがあるわけでもない。



俺は、走った。



着替えて持つものも持たず家を飛び出し、同封されていた新幹線のチケットだけを握りしめて。




がむしゃらに、走った。







“けーちゃん”







アイツの笑顔が、脳裏に浮かぶ。




まるで、昨日のことのように。




もう……思い出すことすら、しなかったのに。




あれから、三年も経つっていうのに。







……――由希。







早送りみたいに流れていく外の景色を、窓からぼんやり眺めていた。



後先考えず新幹線に乗ったはいいが、俺が住んでる場所からこれから向かう先までは三時間近くかかる。



状況も落ち着き、冷静になれば、ごちゃごちゃと色んな考えが頭の中を巡った。






危篤って……なんだよ。



いったい何がどうなってんだよ。




まさか……事故か?




死ぬっていうのかよ……アイツが……?




気ばかり焦って、俺を急かす。イライラが募る。




この三年間、考えたこともなかった。





小学校最後の年。




捨て去った、過去。




もう二度と、振り返らないと……決めた。





なのに。




その過去が、俺に手を伸ばし、呼び戻す。



今になってまた、俺の胸を掻き乱すんだ。







還る……導かれていく……






幼かったあの頃に




記憶の彼方へと――。




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