novel

□原体験
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チィ、と舌打ちしてサスケが無線機を握りしめる。
バキリ、と音を立てて、それきり無線機はうんともすんとも言わなくなった。
「通じねぇ……」
「ノイズはあったじゃん、通じるトコまで出て行けばよかったじゃね?」
「……」
歯ぎしりとともにサスケはナルトを睨みつける。
苦虫をかみつぶしたような顔ってこんなんなのかな、とナルトがのんきに思っている傍らで、サスケはコン
パスを取り出してはため息をつき、地図を見てはくるくる回して首をひねる。
そんなふうにサスケが悩み倒すのをナルトは観察していた。
「ケッキョクさ、俺らってどうなったの?」
「……遭難した」
「え」
サスケは吐き捨てるように言ってその場に座り込んだ。
絶望感を隠しもしない。
樹海から見える狭い空を見上げ、ナルトは薄ら笑いを浮かべた。
面白いからではなく、実感がまったくわかなくて。



【原体験】



今回の第七班が受けた任務は少し特殊だった。
詰め所に依頼があったのはちょうどカカシ率いる第七班がいつものように草むしりたゴミ拾いといった下忍
御用達の任務を受けようとしていたときだった。
「息子を捜してください!」と物凄い剣幕で初老の婦人が飛び込んできた。
そしてすぐにカカシを見つけた。
「あなた、あの『写輪眼のカカシ』さんですよね?お願いです、一刻を争うんです。息子を捜してください!
お礼は惜しみません!!」
取り乱した様子の婦人はまくし立てる。
周囲はその迫力に視線を奪われる。
ひとりサスケは『写輪眼』のカカシという通り名が、本家本元の自分を差し置いて定着していることを気に
していたが。
「まあ、落ち着いてください。依頼はコチラ、受付の方でどうぞ」
興奮する婦人をなだめつつ、カカシは事情を聞く。
曰く、婦人の息子が手紙をのこして失踪した、ということらしい。
実際に残された手紙を読んでみると、あきらかに遺書だった。

今まで父が自分に過剰の期待をかけてきたが、自分は大学受験に失敗してしまった。
何をするにも父は自分に介入してきて、自由は何一つなかった。
たくさんの犠牲を強いられてきた。
父はとても厳しい。
だから火の国で最高の大学に入れなかった自分を父は許さない。
もう生きていることに希望を見いだせない。

そういう内容だった。
手紙の最後に、彼の向かった場所が記してあった。
そこが今ナルトとサスケが遭難している樹海であり、毎年何十人もの自殺者を出す「自殺の名所」である。
詰め所の職員は内心、他の小隊にこの任務を任せたかったようだったが、依頼人はすでにカカシに何とかして
もらうつもりになっている。
ネームバリューというものに惹かれる依頼人はよくいる。
それに今すぐ動ける者の中では確かにカカシは適した人材ではあった。

行き先である樹海は国境をまたぐ山の、火の国側の周りに広がっている。
大自然に恵まれた土地で、毎年多くの人がハイキングやキャンプに訪れるレジャースポットとしても人気が
ある。
近隣にはキャンプ場もある。
しかし何故か「自殺の名所」としても有名だ。
その由来の一つに、この樹海に自生するある種のコケが挙げられる。
このコケは木に生えて、常にチャクラを発する。
しかも生えた木によって発するチャクラには大きな違いが出る。
そのため樹海は木の葉の誇る「白眼」を使う者にとってですら「大変見通しが悪い」地であり、遭難した場
合、救助が遅れるということが多かった。
そのせいで確実に死ねる場所として自殺志願者がふらりと入っていく場所となっていった。
他に有名な小説家の作品で「自殺の名所」として取り上げられ、人気アイドルが自殺場所に選んだこともあ
りいつしかこの樹海は「自殺の名所」というレッテルを貼られてしまった。


「サスケェ、カカシ先生やサクラちゃん捜しにいかね?」
「遭難したら基本的にその場から動くなってアカデミーで習わなかったか?」
湿った地面にナルトとサスケは腰を下ろす。
周囲からは虫の声と木の葉が擦れ合う音がする。
遠くからは鳥の鳴き声もする。
が、聞こえる音はそれだけで、とても静かだ。
見渡す限り同じような色の、同じような木々が繁り、道順もなにも覚えられたものではない。
出発前にふたりともカカシから注意は受けていた。

『遊歩道からそう離れていないところでも死体が見つかるんだよー。
つまり油断してたらすぐ遭難しちゃうってことだね。
気をつけるんだよ』と。

結局、忠告むなしく、二人して見事迷子になってしまった。

「ナルト、お前が悪いとは言わない。無線機を壊したのは俺だ。だけど俺のせいになんてしてみろ。
その瞬間俺はお前を貴重なタンパク源の一種と見なすからな」
「……いくらなんでもその発想は怖えぇよ!!」
サスケの冗談が冗談に聞こえない状況に置かれている、というのが現状だ。


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