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□ご飯より大切なもの
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「ダメだって・・・」

手を振り払おうとはするものの、

力が入らない。


徐々に近づいてくる足音に

少なからず、和也は動揺した。

「・・・ほ、ら
人・・・・・・来ちゃうから」


「来ないよ」

智はそう言い切る。


「ちょ、、智・・・ッ」


やがて、その足音は遠くなった。


「・・・ね?」


来なかったでしょ?と言わんばかりの含み笑い。


「ば、か・・・」

その上気した上目遣いが、いとも簡単に智のスイッチを押していた。

「ん・・・っ」


壁と智に挟まれている和也は身動きがとれず、智のなすがままに唇を封じられる。

何度も何度も角度を変えて、噛みつくようなキスをした。

そのうち苦しくなって息を吸おうと口を開けるが、その拍子にぬっと温かいものが入り込む。


「んぁ・・・ふ、ぅ・・・」

体が熱くなって、なんだかドロドロに溶けてしまったようだった。


やがて智も苦しくなったのか、そっと唇が離れた。


どちらのかもわからない唾液だけが、和也の顎を伝った。


「・・・にすんのっ
ばかっ、智のばか
人が来たらどうすんの」


羞恥で顔が真っ赤になりつつ、智の胸をたたいた。


「来なかったじゃん」

ふふ、と笑いながらそのまま和也を抱擁する。


「でもここスタジオだから!」


二人が今いる場所は、レギュラー番組のセットの真後ろだった。


いつ誰が来てもおかしくない状況ではある。


普段仕事でじゃれあうのとはわけが違うのだ。

そんな姿をスタッフの誰かにでも見られたら、次からどんな顔して仕事すればいいのやら。


「だってニノ不足だったから」


よく言うよ。自分は翔くん翔くんって俺の事ほったらかしだったくせに。



もちろんその言葉はでかかる前に飲み込んだ。


「・・・もう仕事終わりですか。」


「うん」


「ご飯一緒に」「行かない」



まだ最後まで言っていないのに、智の拒否する発言で遮られてしまった。


「もうなんなんですかっ
せっかく人が気を使えば断るし・・・」


もちろん、単に気を使ったのではなく、智と一緒にご飯食べに行きたかったからなのだが。


「俺、帰ります」

断られた腹いせに、軽く突き飛ばすようにして智から逃れた。



「ちょ、待って」


油断していた。

和也は後ろから抱きしめられた。


「やめ・・・」


「ご飯より、お前が食べたい」


耳元で、いつもよりトーンを落とした声で言われた和也は、せっかく治まってきた熱も、またぶり返した。



そんな和也がどうしようもなく可愛くて、智は自分の高ぶりを押さえる事に必死になりつつ、手を繋いで帰路を急ぐのであった。




fin
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