小説

□これから
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いつだったかな。順が私の事を最初に姫って呼んだのは。すごく小さいときだったかな。そもそもなんで姫って呼び始めたんだっけ?


「なーにしてんの、お姫様」


「順…」


そんな覚えてるかどうかも怪しいことを考えてたら目の前に急に現れた順の顔。何故か髪の毛に葉っぱがついてる。


「今日はあったかいけどあんまり外にいないほうがいいよ」


「日もあたってるし大丈夫。順こそ何してたの?」


「そこの木で休憩してたら夕歩が見えたからさ、降りてきた」


「トレーニングしてたの?」


「そうだよ。結構努力家でしょ?」


へらって笑いながら順はふざけたように言ってくる。そういえばジャージ着てる…。
それに汗もかいてる。


「汗かいてるよ。タオルは?」


「それが忘れちゃってさー、汗ふけないからべたべた」


「ハンカチしかないけど…。はい、これつかっていいよ」


さすがの順でも風邪ひきそうだと思ってポケットからハンカチをだす。タオル地だから結構つかえるはず。


「いいよ、かなり汗かいてるし。よごれちゃうよ」


「そんなの気にしないよ」


「いやいや、姫の物を汚すわけにはいきませんって」


また言った。最近の呼び方はどこかで線を引こうとしてるみたいで何かやだな。…思い出した。順が姫ってはじめて呼んだ時の事。確か小学3年くらいのとき――。


お姫様。


お姫様?


うん。


私の事?


そうだよ。


何で?


久我は静馬を守るんだって。


よくわかんないけど、昔の話だって聞いたよ。それ。


そうだけど…夕歩のこと守りたい。


…順。


童話でも王子様は『助けにきました、姫』みたいに来るよ。


……。


お姫様って呼んだら、守れそうじゃん。


…なら姫でもいいよ。


ほんと?


ちゃんと助けてね?


うん!


――そうだった。最初、順はそういって優しく姫って呼んだんだった。今も優しい言い方だけど何か違う。


「夕歩?どしたの?…。おーい」


「…え?なに?」


「ぼーっとしてたから。なんかあった?」


「何でもないよ」


「ならいいけど、なんかあったら言ってね。じゃ、そろそろ暗くなってきたし一緒に帰ろう?」


「うん。…ね、順」


「なに?」


「順が初めて姫って呼んだ日の事、覚えてる?」


順のことだから忘れてるだろうけど…。


「んー…。覚えてないなぁ」


やっぱりね。


「どうしたの急に?」


「別に。早く帰ろう。寒くなってきた」


いいけどね。覚えてなくても。…拗ねてないからね。


「そだね。…はい」


「…いいよ、順の方が寒いでしょ?」


木の下に置いてあった上着を順は私にかけてくれた。半袖の順の方が寒そうなのに。


「私は動いたもん」


そういって次は手を握ってきた。なにかと思ったらそのままポケットに持っていった。…変なとこで気つかうんだから。


「今度は何?」


「冷たい風から姫の大事な手を守っています」


「なにそれ…」


「あれ?反応薄いなー」


「…順のバカ」


「急に何?」


「なんとなく」


「なんとなくって…」


「うっさい」


「…はい」


いいけどね。今は今でちゃんと守ってくれてるし。


「夕歩」


「…何?」


「そんな怖い声ださないでよ。今日増田ちゃんいないんでしょ?部屋行っていい?」


「何で知ってんの?」


「本人から聞いた。で、行っていい?」


「…いいよ」


「ありがと」


「…変なことしないでよね」


「しないよ。ただ夜に一人はいやでしょ?」


「…病院で慣れてる」


「だからだってば。一人が多かったんだからさ、こっちにいるときくらい一緒に寝るよ」


「…大事な姫だから?」


「大事な夕歩だから」


…ま、いっか。名前で呼ばれる方がいいしね。







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