Original

□少年少女
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午後の授業をなんとなくサボタージュして帰る、昼の市営バス。

なんとなくなどというのは不適切かつ無粋ないい方かもしれないが、実にまったく確かになんとなくなのである。
とくに理由という理由が見つからない。

そんなことは私にとってどうでもよいのかも知れない。





私は昼の間は数少ないバスに乗り、自宅近くのバス停に降りる予定である。

その間およそ十分。

バスを降りたら携帯電話という文明の利器を使用して、母に連絡を取り迎えに来てもらう。
バス停から歩いて帰ることも別に支障はないのだが、私も未熟であるが故楽をしたいという気持ちは大いに持ち合わせている。



学校最寄のバス停で、一時十三分のバスを待つ。
午前中の授業を終えて二十分後のバスである。

前十分はバス停までもちろん徒歩で向かう私には、だらだら歩くのにちょうど良い時間。
残りの十分は今日借りた小説を読み進めるのにちょうど良い時間。


私はのんべんだらりとバスを待つ。


十月中旬の秋風は、私の着用する学校古くからのセーラー服のプリーツをなびかせる。
足にかかるかすかな感触。
わずかの肌寒さ。

学校内にいるときには結っていた髪の毛をほどいていたので、読んでいた小説と自らの瞳との間に黒髪がゆれる。
視界が遮られ、読んでいた文章の在り処を失う。

一度は読んだ文章をもう一度読みなおしながら、私はさきほどの続きを探した。





そうこうしているうちに、視界の端にバスが到着してしまった。

結局私は続きの文章を読めないでいる。
乗り物の中で何かに集中していると酔ってしまう体質であるので、私は仕方なく本を閉じて鞄にしまう。


胸のぽけっとから定期を取り出し、バスのセンサーにあてがう。
無機質な読み取り音が少ない乗客を乗せたバス内に響く。


私はゆったりとした空間を求めていたので、後ろの方の二人席に場所を探す。
何度も述べているように、人はあまりいないのですぐに自分の席を確保できた。




しかし、席を探しているときに目があった青年の顔にどうも見覚えがあった。

彼も私と同じく制服姿。
もちろん男子であるので男性用の制服ではあるが、私とは学校が違うので彼はブレザーを羽織っていた。

いつも学ランばかりを見ている私には新鮮な格好である。

校則がそれほど厳しくないのか、厳しいことに反抗しているのかどちらか判断つけかねたが、
彼は、眉を形は綺麗だが薄く剃り、口元と耳朶にはピアスがあった。


私が彼を視界に捕らえたときの、彼の瞳のきつい輝きがやけに怖かった。
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