Bleach

□君のその顔が見たかった
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「ばっ…か……マジで…漏れるって!」



そんな叫びが聞こえてくるのは、深夜遅くの零番隊隊首室。

隊長の人柄もあってか、
仕事の早い零番隊には残業というものがほとんどない。
故に、
一般隊士の倍以上をこなさなければならない隊長の一護以外は、
もう隊舎には残っていなかった。

泣けど叫べど、
誰にも助けてもらえない状況。



しかし、一護は今まさにその零番隊でとんでもない危機に直面していた。













遡ること一時間前。






一護がスラスラと真面目に筆を片手に職務をこなしていると、
自分が背にする窓にコツンと何かが投げつけられた音がした。

音がする程度のモノを投げたということは、
決して窓を割りたいという思いがあるわけではなく。
中の人物を呼び出したいということ。


一護が相手の意を飲んで、
背にした窓をスライドさせると
そこには赤色に煌めく長髪が揺れていた。

普段はひとくくりにしている髪を、
今日はだらしなく解いていた。


死覇装ではないところを見ると、私用だろうか。



「どうしたんだ?こんな夜中に…」



一護は階段を下って恋次が立つ隊舎の入り口まで行くと、
急な喧嘩友達の来訪に扉を開ける。


恋次が右手を挙げて示してきたものは上物の酒で。

一緒に飲まないか、というお誘いらしい。


まだ書類は残っているものの
期日の迫っていたものはすでに目を通してある。
これから少しくらい息抜きをしても大丈夫だろうと一護は隊首室へ恋次を案内する。




「ったく、相変わらずオメェだけかよ。残ってんのは。
下っ端に手伝わせりゃぁいいものを」


「何回も言わせんなよ、俺の仕事は俺がする。
普段みっちり仕事させてんだから、ちゃんと休ませてやりてぇんだよ。」


「へーへー、立派な隊長様だな」


「ま、おかげでこんな贅沢な酒も飲めるしな!」


クイと猪口に注いだ酒を飲み干し、一護はニカッと笑みを見せる。

恋次にとっては、一護こそ十分な休息を取るべきだと思うのだが、
部下思いで職務に真面目なこの男が
自分が何と言おうと聞かないのは分かりきっている。

恋次には、美味そうに笑う一護に苦笑いを返すことぐらいしかできない。

一護は恋次の大切な存在。
助けてあげたいのは山々だが、それでは一護の誇りを傷つけてしまう。
本当は誰よりも一護を気にかけているのに、何ともできない自分がもどかしくて堪らないのだ。


「…恋次、お前おはぎ好きか?」


「……好きだけど…何だよ急におはぎって」


一護は手に持っていたお猪口をテーブルに置くと、
恋次と向かい合わせのソファに座っていた一護は立ち上がり、
「ちょっと待ってろ」と言って棚から取り出した箱は何とも甘い香りがした。

一護がその箱を開けると、
中から綺麗に並んだ十数個のおはぎが見える。


「酒のつまみ…って言うには変だけど。よかったら食べろよ。
浮竹さんからたくさん貰ってどうしようかと思ってたんだ」


浮竹と一護は甘味が好きでよく二人で甘味処に通ったりもしているが、
さすがに甘いものが大好きな一護でもこの量は重いらしい。


「じゃあ、有難く」


恋次はおはぎをヒョイとつまみあげて、
パクリと口の中に放り込んで咀嚼する。
甘くて上品なあんこの風味が口の中全体に広がって、どれだけ高級なものなのかが分かる。
甘さもしつこくなく、後味はさっぱりとしていた。


「美味いだろ?
いいって言ってんのに、いっつも高そうな菓子ばっか送ってくるんだよなー」


口の端についたあんを舐めつつ、恋次は思う。
浮竹が質の悪いものを一護に送るはずもない、と。

浮竹は一護を実の息子のように、またはそれ以上に可愛がっているのだ。
それに、浮竹だけではなく、一護をベタベタに可愛がっている年寄りは多いし、
藍染や日番谷のように虎視眈々と一護を我が物にしようと画策している者も数多くいる。

一護はこの容姿と性格故に、尸魂界では誰もが憧れる存在なのだ。


「お前のことが、可愛くてしょーがねーんだよ、浮竹さんは」


「そんな可愛がられる年でも、ねぇんだけどなー…」


きっと一護のこの容姿なら、いつまでたっても皆に可愛がられることだろう。
当の本人はプライドの高い奴だから嬉しくはないだろうが。
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