Bleach

□Darker than Black
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誰にもほどくことのできない鎖。
がんじがらめにされた小さなオレンジの少年。
成長するにつれ鎖は肌に食い込み、少年は青年へと、そして青年はその青白く細い体に無数の傷を背負う。
痛めつけれた肌、後を残す鎖、彼を留めようとする執念と憎悪。

それはある日少年自身が作りだしたもの。

自分を戒めるため、律するため、自分は情けない人間だと理解するため。
彼は自らに罰を与えた。

罰は彼の思い通りに彼を傷つけ続けた。

雨が嫌いな少年は、雨の中立ち尽くして何を思う。
眉間に皺をよせた青年は、己の罪の前に立ち尽くして何を思う。







               


                  ―Darker than Black―








先ほどまでポツポツと降っていた雨が、
間隔を開けるまもなく激しく、彼と、赤い青年の肩を刺していた。

まだ昼だというのに、分厚い雲のせいでまったく光が見えない空。
湿気と薄暗さで包まれた空間。
何も口にしない彼と、同じく彼を見つめるだけの青年。


彼らの周りには黒く、そして綺麗な長方形の形をした石が均等に並べられていた。
暗く重い雰囲気を発するその石には、人々の愛しき家族の名前が刻み込まれている。

空から降り注ぐ雨粒のせいで、視界が白い無数の縦線に遮られる。


彼の前には『黒崎家』と刻まれた石。
その下に眠るのは彼が幼きころ一番に護りたかった存在。
しかし、本当にその魂がこの石の下にあるのかというのは彼には到底分からないこと。


彼が護ることのできなかった母の骸。
彼が護ることのできなかった母の魂。


彼はただ、母の安らかな眠りを願って、この日、ここに立つことしかできなかった。


毎日のように繰り返される悪夢。
幸福な時間からの地獄。

幸せだった日々を忘却することができないが故に、悪夢をよりいっそう際立たせる。

情けない自分。


強く生きていかなければと何度も誓いを立てる。

自分の精一杯の力で、
自分の大切な仲間と家族を護りたいと。




いまにも崩れだしそうな彼の隣へ、赤い青年はそっと立った。

彼が崩れてしまわないように。



青年は言う。



「お前の背中にしょってるもん、少しくらい俺にも分けろよ」





青年の言葉は降りしきる雨の音にも決して負けず、
強く彼の中へ響いた。


彼の頬には何筋のも水が流れている。

それは彼が見せることなかった涙なのか、それとも雨のせいなのは分からない。





彼は倒れこむようにして、青年の腕の中へ体を委ねた。

青年は壊れないようにゆっくりと、腕の中の彼を抱きしめた。



彼と青年の、血をすって重くなった死覇装が溶け合う。







彼らはその狂い出しそうな悲しみと、血みどろの自らの刃と、儚くも美しい信念とを抱え、
黒よりも暗い闇の道を突き進んでいく。











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