-海の図書館-

□始動
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少女は自分の今の心情を具現したような暗い暗い道を歩いていた。

先程のトレジャーハンター達はどうなっただろうか。
そんなわかりきったことを考え、自己嫌悪に陥る。
「…………」
頭を降って今の考えを消し、目の前の扉を両手で押し開けた。

「ぅわ……」
途端、むせ返るような鉄の臭いに思わず顔をしかめて口元を覆う。

「戻ったか…」
声のした方へ蔑むような視線を向けて少女は話し掛ける。
「これ、あんたがヤったの?」
暗闇の中で、影が首を横に振った。
「俺は首の一太刀だけだ。後は……」
そう言って更に奥を指差した。

「あ、お帰りなさい、"レーク"」
ずるり、とナニカを引きずるような音と共にやや幼い少年の声が聞こえる。

――一層、鉄の臭いが強くなった。
「"サクリス"…、何もここまですること無いじゃない」
レークは一歩後ずさる。
彼が持っているモノが何なのか気付いたからだ。
クスクスと場違いな笑い声が辺りに響く。
「ふふ、優しいですね、レークは。でもね、"あの方"を目覚めさせるにはこのくらいやらないとダメなんですよ」
少年が前に足を踏み出す。
ピチャ、と今度は水の様な音がした。
「……そうなの?」
少年ではなく、壁に寄り掛かっている男に尋ねる。
「さぁな…。俺にはわかりかねる」
そうなんです、と少年が答える。
「なんせ此処にやって来る人が少ないんですから。しょうがないんです」
「…………」
警戒心を隠すことなく睨みつけるレークに、サクリスは特に気にした様子もなく肩を竦める。
「嫌われちゃいましたね」
「別に元から好きじゃないから」
「あはは、厳しいなぁ」
(どっちが……)
少女は心の中で悪態をつき、くるりと踵を返す。
それほどか弱くはないが、この惨状を見て流石に気分が悪くなってきた。

「何処に行く」
男が率直に尋ねる。
「外っ。こんな所にずっと居たくないの!」
「あ、じゃあまた流してきてくださいよ。お宝好きな方達に、"一獲千金のお話"を」
「っ…!……わかったわよ!」
思い切り扉を開け、そのまま大股で歩き出した。



足音が聞こえなくなってから、少年が尋ねる。
「別に貴方も行って良いんですよ?"ヒョウブ"」
ヒョウブと呼ばれた男はいや、と答える。
「こんな格好では行けんだろう」
「…そっか、そういえばそうですね」
サクリスが指を鳴らすと燭台に火が点いた。
―――照らされた2人の服は、赤黒く染まっていた。
そしてその足元には、腕、脚、頭、それに胴体が二人分。
「あーあ。レークに服を頼めばよかったなぁ…」
そう言って残念がる姿は、本当に、何処にでもいる普通の少年のだった。






To be continued.
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