-海の図書館-

□始動
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「ガドリアに帰る?」

つい先刻告げられた言葉を眼鏡をかけた男性がおうむ返しする。

それを言った突然の来訪者はコクリと頷く。
「何でまた急に…」
彼女のことだ。黄色いボンボンと服が特徴の騒がしい少女と違って何か思うことがあってのことだろうが、その意図が保安官にはわからない。
なので黒髪の少女――クロエヴァレンスに尋ねると、思わぬ答えが返ってきた。

「もうひとつの本を探すために」
「何だと?」
ウィルは眉間に皺を寄せる。
昨日発見した本とそれに記された謎。
それを解き明かすために本日の午後、ミュゼット宅を訪れようとしていたのに、彼女は1日にも満たない時間で何に気付いたのだろうか。

「その根拠は何だ」
「……あれに描かれた絵が私の屋敷の書斎に似ているんだ」

確かにクロエは元ではあるが他大陸にまで名を馳せている貴族の令嬢だ。
屋敷はさぞ優美で壮観なのだろう。
しかし、それだけでは理由にならない。
ガドリアの屋敷など、貴族の数だけ存在するのだから。

「お前の屋敷に似ているとしても、書斎だけなら他の屋敷も似たような造りかもしれん。可能性は低いぞ」
「いや、低くはないんだ」
そう断言するクロエ。
「昔の夢を見て思い出したんだ。まだ私の両親が生きていた頃の……」――――――





――――『父様!母様!』
『おや、どうしたんだ?クロエ』
『この絵本が何だかわかる?じぃや達に聞いてもわからなくて……』
それを見せると、2人は大きく目を見開いた。
『これを…何処で見つけたの?』
『?いつもお勉強してる所』
『…そう』
2人は秀麗な顔に蔭をおとす。
しかしそれは一瞬のことで、すぐに淡い微笑をたたえて小さな少女を見た。
『クロエ、それは私が持っていても構わないか?』
そう尋ねられてクロエも笑顔で頷いた。
『うん、もともと父様達の物だもん。それよりもこれが何かわかったの?』
『ああ、でもまだクロエには教えてあげられないんだ』
その言葉に『え〜』
と言って肩を落とす。
『大丈夫。クロエがもう少し大きくなったら全て教えてあげるから』
ね?と優しく母に諭されては、娘は頷くしかない。
『はい……。でも、絶対教えてね?』
『ああ、その時が来たら、な……』
そう言って微笑み頷く両親の顔に紛れていた悲しげな表情は、幼い彼女の心に何故か印象的に残ったのだった。











「―――――というわけで、多分それがあの本だったんじゃないかと思うんだ。それを確かめために一度ガドリアに戻りたいんだ」
「ふむ…、確かに調べてみる価値はあるな。よし、今すぐ皆を呼んで――「いや、クーリッジ達には言わないでくれ」
クロエがウィルの言葉を遮り首を横に振った。
「休戦しているとはいえあそこはまだクルザントと戦争中なんだ。そんな場所へ皆を連れていく訳にはいかない」
頼む、と頭を下げる彼女に、ウィルは困った顔をする。
「言うな、と言われてもな……」
「?」
ウィルの歯切れの悪い言葉に何かあるのかと問おうとした時―――――


「そぉぉおんな自分勝手なことあたし達が許すわけないでしょーーー!!」
バンッ、と音を立てて開いたドアの前には茶髪の少女。
その後ろにはマリントルーパーの服装をした青年と黒髪の少年がいた。

「なっ!何でここに!」
「セネルは昨日そこの部屋で寝てな。ノーマとジェイは俺が呼んだんだ」
家主が冷静に説明する隣でクロエは目を白黒させる。
「だから言っただろう。"呼んでくる"と」

ああそうか集めるじゃなかったのはそういすことだったのかでもよりによって何でこの3人なんだこれじゃあ皆にばれたも同然じゃないかと驚愕のあまり頭が混沌としてそんなことをつらつらと思う。
そんな彼女に銀髪の青年が声をかける。


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