-海の図書館-

□〜平和な時間(とき)〜
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港にたどり着くと、クロエはうわぁ、と声を漏らした。
「随分と活気づいたな…」

内海港は、ほんの数ヶ月の間でもかなりの変化が見てとれた。
以前は倉庫と船乗りの休憩所、そして馬車や護衛を依頼する役所ぐらいしかなかったが、今では漁船の数も増え、鮮魚店や土産屋など、まるで小さな商店街のようになっていた。
「そうだな。街でも人がかなり増えただろ?その中の観光客を中心とした商売ができ始めたんだ」
「クーリッジはけっこう此処には来てるのか?」
「ああ。今日みたいな用事の時もあるし…、まぁ、だいたいは本業の方で来ることが多いな」
本業、と言われて一瞬首を傾げたがすぐに思い至った。

セネルは遺跡船に来るまではマリントルーパーをしていたのだ。
海が穏やかになったとはいえ、魔物は相変わらず存在する。
マリントルーパーとは、船を襲ってくる魔物のような害を及ぼす奴らを退治する仕事だ。
そこらにいる戦士が束になっても敵わない程の実力を持っている彼がこの仕事に復帰するのは当たり前だろう。

その反応で今まで忘れていたことを感じ取ったのか、セネルは苦笑いしながら言った。
「俺だって伊達や酔狂でこの恰好してるわけじゃないんだぞ?」
「う、うるさい!そんなことわかっている!ただ、ちょっと思い出せなかっただけで…」
「はいはい」
図星を突かれて慌てるクロエにそう返事をすると、ムッとした顔で
な、何だその投げやりな返事は!と僅かに頬を染めて反発してきた。

その後も横で色々と言ってきたが、適当にあしらった。


やがて客船がやって来たため、クロエも口をつぐんでセネルの後をついていく。
ボオォォーー…


汽笛を鳴らして桟橋に船が到着する。
先ずは数人の船乗りが降り、それから乗客が次々と出てきた。

その船乗りの一人にセネルは声をかけた。
「ウェルテスの保安官、ウィル・レイナードに頼まれて荷物を取りに来たんだが…」
「ウィルさんのですか?そういったことは聞かされていないのですが…」
「おかしいな。確かにこの船だと聞いたんだが―「あぁー!セネセネとクーじゃん!?」

背後から懐かしい声がとんできて二人は目を見開き、振り返った。
そちらも驚いていたが、すぐに表情は喜びに変わる。

「「ノーマ!?」」
「おっひさ〜♪相変わらず息ぴったりでいい感じですな〜」
「「おかしなことを言うな!」」
反論した声まで揃ってしまい、互いに頬を染めて視線を逸らす。
それを見てノーマはケラケラと笑った。
「あはは!二人共変わってないな〜。ところでどしたの?もしかしてあたしを迎えに来たとか?」
「いや、俺達はウィルの頼み事で…、そもそもノーマが今日戻ってくることすら知らなかったしな」
「ああ。ノーマも戻ってくるのなら連絡のひとつでもくれればいいものを…」
クロエが非難がましく見つめるとノーマは意外そうな顔をした。

「あれ?あたし手紙送ったよ?今日戻ってくるよ〜って」
「え?」
「でも、そんな手紙私たちには届かなかったぞ?」
「そりゃ〜クー達には送ってないもん。」
「じゃあ、誰に?」

そう問い掛けると、ある人物が彼女特有のあだ名で出てきた。
「ウィルっち。全員に手紙書く暇なかったからさ〜。ウィルっちだったら皆に伝えてくれるかな〜って思って」

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