-海の図書館-

□〜平和な時間(とき)〜
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「そういえば、クーリッジの用事とは何なんだ?」
訓練も終わり、階段滝の道を歩きながらクロエは問い掛けた。
魔物達は行きにあらかた片付けてしまったため、今は色とりどりの木々が並ぶ穏やかな街道となっている。

「ん?ああ、ウィルに頼まれてな。内海港に荷物を取りに行くんだ」
ウィルとは、この街の保安官、ウィル・レイナードのことである。
本業は博物学者なのだが、優れた統率力と判断力から人々に厚い信頼を寄せられて不本意ながらもこの役目を担っている。
「今じゃすっかり次期保安官だな、クーリッジ」
からかうようにそう振ると、セネルはげんなりした様子でやめてくれ、と返してきた。
「俺はそんな柄じゃない」
「…確かに、こんな寝坊すけな奴が保安官じゃ、朝は街が荒れ放題になるな…」
「おい…」
保安官は御免だが、そんな風に真顔で言われると少し傷付く。
「ふふ、冗談だ。実際いいと思うよ。皆からも頼りにされているし」
…そんな真面目に褒められるのも照れるんだが……。
どう返せばいいのか分からず、セネルは頬を掻いた。

それにしても、とクロエは港の方角を見つめて呟く。
その瞳は少しだけ寂しそうな色を映していた。
「内海港か…。ノーマを見送ってから行っていないな…」
そう、お宝探しが目的で遺跡船にやって来たトレジャーハンターのノーマ・ビアッティは今、大陸に戻っているのだ。

"ししょーのことは片付いたから、そろそろこっちの方もなんとかしなきゃな〜"
数ヶ月前にそう呟き、大陸に帰ると突然言った。
"こっちの方"とは彼女の両親のことである。
家出して依頼、自分で居場所を教えようとも思わず一切音信不通だった。
しかし、決戦前夜に両親に手紙を書こうとしてからというもの(実際は上手く書くことが出来ず出さなかったが)、どうしているのか無性に気になったらしく会いに行こうと思ったらしい。
その行動力に皆呆気にとられながらも、帰郷する少女を見送ったのだった。


「…一緒に来るか?」
「え?」
その時のことを思い出していたのだろう。
声をかけると、キョトンとした顔でセネルの方へ向き直った。

「内海港、行くの久しぶりなんだろ?あ、何かあるんだったら別にいいんだけど」
「い、いや、特に予定はないが…いいのか?」
「もちろん。それにウィルのことだ。もしかしたら一人じゃ持ちきれないような物かもしれないし」
呆れたようにそう付け加えると、クロエは小さく吹き出した。
「違いない。そういうことなら、仕方ないから付き合ってやるか」


午後も一緒にいられる口実が出来たことにお互い心を躍らせながら、二人は内海港へ向かった。









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