-海の図書館-

□始動
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―――――


ざく、ざく、と、道無き道を革靴で踏み締める。
男2人は汗を流しながらろくに会話をせず黙々と歩き続ける。
周りは樹と岩、下に目を向ければ砂利、草、木の葉。
およそ人が住んでいるという生活感が全く存在していない。
勿論彼らは住宅を捜してさ迷っているわけではない。
男の背負っている荷袋から飛び出している道具の類――スコップや何に使うのかわからない奇妙な形をした針金――を見ればただの旅人でないことは一目瞭然である。

この者達はトレジャーハンターだ。
動く遺産として名高いこの遺跡船はこの職に就く者にとっていわば宝の宝庫なのである。
2人もかねてから聞いていたその情報を頼りに向かおうとしたのだが、その頃こちらでは様々な騒動があったため入港が困難だったのだ。
当然上陸(と言えるのかどうかわからないが)した頃は既に北側は他のハンター達――正確にはレクサリア軍であろう――に回収された後だった。

そこで彼らは危険を冒してこの南側の森を探索することにした。
未だ詳細の分からない帰らずの森で、一獲千金を狙おうという魂胆なのだ。


おい、と恰幅の良いが相方に声をかける。
「そろそろ休憩しねぇか?足がくったくたでよぉ……」
「……そうだな、一休みしよう」
ふへぇ〜、と奇妙な声を上げながら男はへたりこんだ。
この男とは対照的に不健康なまでにやせ細った男も近くに腰を下ろす。
「それにしても中々出てこねぇな…。此処に入ってからで何日だ?」
そう言いながら水をがぶ飲みする。
ふくよかな彼の大きな荷物の大半は水と食糧だ。

「3日目だ」
迷わずに男は答える。
「今まで誰も足を踏み入れなかった所だ。諦めるには早過ぎるだろう」
「諦めたわけじゃねぇさ。ただこうも何にもねぇとよ……」
干し肉を取り出し、それを口に含もうとした瞬間、

――――キィイ!
「おわっ!!?何だこいつっ、おめぇの餌じゃねぇんだよ!」
突然飛び出してきた怪鳥が干し肉を奪おうと男の周りを飛び回る。
恐怖で、ではなく肉を奪われまいと必死で鳥を振り払う。
しかし勢い余って後ろに転倒し、挙げ句の果てに下り坂だったらしい地面を転がっていった。

その姿に、傍観していた男は呆れまじりに溜め息をついた。
やれやれといった体で追い掛けると、その人物は顎を上げて仰向けの体勢になっていた。
「おいおい、何やってんだよ」
「…な、なぁ、あれ…」
「?……!!」
唖然とした声に訝しげに思いながら指差した方向を見遣り、ギョロリとした眼を大きく開いた。

「これは…!」
壮大な雰囲気を纏ってそびえ立つ、風化しても尚難攻不落に見えるような圧倒感を感じさせる建造物。

それは間接的とは言え彼らが求めていた物だった。

「こんな所に遺跡があったとは…」
「すげぇ…、お宝の匂いがプンプンするぜ!」
瞳に爛々と輝かせガバッと勢い良く立ち上がり、見た目とは裏腹に俊敏な動きでそこへ向かっていった。
彼はトレジャーハンターなのだ。常日頃から危険と隣り合わせのような冒険をしているのだから逃げ足も速くなるし、武術も多少なりとも嗜めるのは当然だろう。


続いて男も――こちらは見た目通り俊敏な動きで――駆け出した。






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