短編

□別れと始まりと
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「終わっ、た……?」

生身のアルフォンスを見る。
茫然と自分の身体を見つめていて、その瞳には涙が見えり。ゆっくりとオレを見て右腕と左足がオレの物だというのを確認すると顔を歪めて抱きついてきた。受けとめるオレの腕は血が通っている。

「兄さん……っにいさん!こんなにあったかいんだね、こんなに空気は澄んでるんだね……っ」

抱き締めた弟は熱があって、今までオレが奪って冷たい鎧に閉じ込めてきた生命の鼓動を刻んでる。
当たり前のことを喜ぶ弟に切なくなった。
だけどオレも、こんなにも涙が暖かいものだなんて知らなかった。

「アルフォンス……ごめんな、ごめんな……っ」
「なんで謝るんだよ、もういいんだよ兄さん」
「いいわけあるか…っ」

優しい弟。オレが奪ったものはたくさんあるのにずっと笑ってる。
お前は鎧でも暖かかった。
でも今は、目の前に暖かい笑顔もある。それがどれほど嬉しいことか。

「ありがとう兄さん。ごめんね……にいさん」
「アル……っ!」

やっと終わった、オレたちは取り戻したんだ。
ちゃんと全身に血液が回るのがわかる。アルフォンスが笑ってるのがわかる。


……嗚呼、嬉しい筈なのに。
なんでオレの頬を伝う雫は歓喜のそれとは違って苦しいのだろうか。
まるで、別れに流す涙のように。
間違ってる、だけど止められない。





別れの始まりだ。












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