短編

□お疲れさん
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「なあ」
「んー」
「重い」
「ぅー」
「おーもーいぃー」


 さっきからずっと呼び掛けてんのに返ってくる返事は、あーだのうーだの言葉になってない唸り声。いい加減にしてほしいのだが如何せん惚れた弱みがある。ああもう俺ダメかもしんないと本気で考えた。





 何故重いのかご説明いたしましょう。あ、どうせ惚気だろとかそんなこと言わないでください。
 ええ惚気ですとも。そんな弟の呆れた視線みたいな冷たい目をしないで少しばかり付き合ってくださいよ。確かに惚気に聞こえるかも知れませんが、俺にも苦労があるんだよ。


「はい」
「……いきなりこれかね」
「なんか間違ってる?」
「……寂しいと思うのは私だけか……?」
「書類と睨めっこする大佐を待たなきゃいけない俺は寂しくないっての?」
「!」


 はい、実に三ヵ月ぶりだったんだ。
 駅のホームに足をついた瞬間からもうそわそわしちゃって、勝手に駆け出してた。後ろでガシャガシャと慌てる弟を無視して全力疾走。ひでぇ兄貴だ。
 執務室の前に着いたときはそりゃもう左手は汗掻きまくり。扉の前で深呼吸して、ドアを開けた。開けた瞬間にノック忘れたのに気付いたけどいつものことだから気にしなかった。
 俺の姿に気付くと大佐は嬉しそうに笑った。俺はそれが嬉しくて、でも照れ臭かったからぶっきらぼうに報告書を大佐に渡した。俺の態度にお気に召さなかったのか大佐は少し眉を寄せた。
 いつも報告書を寄越せと口うるさいのは大佐のほうだからと白々しく、問題でもあるのかと問うてみた。
 すると大佐は拗ねたように言うもんだから、俺はすぐに意地悪はやめようと思った。だって大佐のあの表情!いつもの余裕が崩れて童顔がさらに幼くなってんだ!
 俺は満足して少し素直になってみた。寂しかったのは大佐だけじゃないぜって。そしたら大佐はまた嬉しそうに笑った。
 ああもう俺はどうすればいいんだろう。顔がすっげぇ熱い。身体中の血液が顔に集まってるかと思いくらい。俺の前だとコロコロ変わる表情が、とても好きだった。
 ……ごめん、少し自重するよ。

 一週間くらい前に、来ることは連絡しておいた。仕事終わらせといてくれたかな、と淡い期待をしてたもんだから積み上がった罪もない白い紙たちを燃やしたくなった。
 怒ってやろうかと思ったけど、目の下の隈を見てやめた。
 なんでも、俺が電話したその直後、めんどくさい上層の人間が数日視察に来ていたらしい。
 連絡もなく突然のことだったから司令官である大佐は動き回ったらしい。そのせいでろくに自分の仕事もできなかったようだ。迷惑な奴らだったと愚痴を零している。上司の悪態を吐くのは誉められたことではないが、気持ちがわからないでもない。
 忌々しそうに書類を捌く大佐は俺なんかより紙を燃やしてしまいそうだった。焔の錬金術師には容易いことだろう。
 だけどそんなことをさせるわけにわいかないので、俺は彼を宥めながらおとなしく待っていた。寂しいけれど、真面目な顔してる大佐を眺めてるのも悪くない。
 でも隈が気になる。数日徹夜していて、休暇をあまり摂っていないらしいと中尉に聞いた。

 心配なのが顔に出ていたらしい。君との時間が欲しいんだよ、なんて気障なこと言われてしまった。俺のために。胸が熱くなった。
 ごめんやっぱとことん惚気になりそうだ。


「お疲れ、大佐」


 もうさすがにぷっつんきそうになってる。俺は苦笑して大佐を支える。まだ待て、まだ待てと励ましながらフラフラの大佐をずるずる引き摺って仮眠室まで運ぶ。


「ほら大佐、寝ろ」
「ぅー…」
「うーじゃねぇ!ほら歩けよ……ってうぉ!?」


 バフン。安っぽい大量生産のベッドのスプリングが軋む。まんまと俺は大佐に押し潰された。潰された蛙みたいな声が出てもしょうがないと思う。倒された、なら色気があったものの。睡魔に引きずられている大佐にそんな考えはないだろう。
 その後俺は一生懸命頑張った。俺より一回りもでかい大人を退かすのは相当大変だ。しかも寝てる人間は容赦なく重い。


「おーいー大佐ー俺潰れてるよー」
「ぅ…ん……」


 わぁお唸り声もセクシー……じゃなくてだな。わかっていただけただろうか。幼気な少年はいい大人に押し潰されて困ってんですよ。


「大佐ーどけよ、重いっつの」
「鋼の……はがねの、」
「ったく」


 むにゃむにゃしやがって。しゃきっとしろよな。
 大佐は囈言のように俺を呼ぶと、抱き枕かなんかと勘違いしてるようで抱き込まれてしまった。髪に掛かる大佐の息が擽ったい。男だから柔らかくないし、ましてや機械鎧は固いのに、抱き心地がいいのか甚だ不可解だ。大佐は大佐で軍服の生地が痛いけど、そんなの気にならなかった。腕に包まれて、自然と笑みが漏れてくる。上下する胸が確かに彼が生きて呼吸してる証拠で、安心できた。


「大佐のばぁか」


 大佐の髪を撫でてみると見た目より柔らかくてなんかおかしかった。


「おつかれ。おやすみ大佐」


 俺もねみぃや。あったかいし、寝るか。圧迫されてんのは苦しいけどな。



 ……いーじゃんたまにはイチャついたって。だって子供みたいなことばっかしてる大佐が悪いんだ。イチャついてんじゃなくて甘やかしてんだよ。同じ?もうどっちでもいーや。


 あ。
 聞いてくれよ、これってさ、大佐が起きて一番はじめに見るのは俺なんだぜ?
















end

なんじゃこりゃ
やおい!!見事にやおい!!どうしよう!?二日で書いたからいけないのかな!?←当たり
ってか最近オチが自分でも納得いかない…(-言-)
というわけですが、コンセプトはいちゃロイエドでロイが子供っぽい、って感じです
年内ラストのうpです。御粗末さまでした。


2008/12/31鈴流優美
加筆修正2010/12/3


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