短編

□何処を間違えたらそうなる。
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「……何」
「いや……」


じろじろとロイ・マスタング中佐とやらの不躾な視線を感じて問い掛けても、答えてはくれずに曖昧な言葉が返ってきた。

一応オレたち…オレを導いてくれた人。これから軍属になって大人の世界に入ろうとしてるんだから、ちゃんとした態度を取らなきゃいけないってわかってる。だから慣れない敬語だって使ってる。

でもなんだこの男は。
わかっててオレを軍のお偉いさんが乗ってた列車に乗せるわ、案の定それを狙った犯行グループは現われるわ。オレがどうにかすると思ったのか、それとも試したのか。

ホント食えない男だ。


「言いたいことがあるならはっきり言ぇ……ってくださいよ」


今のオレは時間が惜しい。機械鎧のリハビリ期間で嫌というほど焦りと憤りを感じていた。元に戻る手掛かりを求めたいのに。

光というには熱すぎる、焔が刻まれたように、この一年、ずっと彼の瞳と言葉を忘れられなかった。
ともかく、オレの先に可能性と言う名の道を掲示してくれるというのなら、まずオレは何をするべきなのか教えてくれてもいーんじゃないのか。
癇に障るが今頼れる大人はこの男しかないのに。

……でも。なんかもう敬語使おうとしても不信感が募っちゃって言葉がおかしくなる。
ムリだ。こいつを上官にするのはなんか嫌だ。幸先が不安になる。

でも駄目、感情に任せて行動してたら大人の世界は渡っていけない、目上の人は敬わなきゃ。
オレもう大人だし。


「ふむ……」


だけどこいつと一緒にいるだけで居心地が悪い。
若くして中佐になる男だ、只者じゃないだろう。じゃなきゃこの階級社会で地位を物にする事などできまい。
とするとあのイシュバール戦で武勲を立てたのか。きっと、いろんなモノを背負ってる。
なにを考えているか読めない瞳に不安が増すばかりだ。


「あの、マスタング中佐……」
「よし」


一人で悶々としてるのも、微妙な空気も嫌で声を掛けようとすると、遮るように何か意志を固めた声。なにがよしだなにが。


「行くぞエドワード・エルリック」
「は?」


突如腕を捕られたかと思えばオレのペースは無視でどんどん進み、しまいには人さらいのように引きずられた。
わけがわからない。なんで今オレはこの状況なんだ。
パニックに陥ったオレに構うことなく、チラリと見上げた先には嫌味ったらしい笑みを浮かべた中佐、どこまでも余裕そうだ。


「やはり此処はひとつ食事が良いと思うのだ」
「へ?」
「初対面の時から思っていたが君は本当に男か?少女の間違いじゃないのか。ということでまずは食事からだ」
「え?」
「女性と付き合うのならまずは親交が重要だからな。それが私のやり方だ。予約は入れてある、味は期待していい」
「ちょ、待っ……ちゅーさ…オレ男……」
「ちゅう?おいおい積極的だな。だがキスはラストだろう?」
「離っ……やーめーろー!」
「はっはっは。嫌よ嫌よも好きの内さ。まぁ任せておけ」
「何言ってんだよ!?離せオッサン!」


ヤバイ。若いかと思ってたらオッサンだった。

オレまさか女と勘違いされてる?
もしかして身の危険ってやつ?
これが大人の常識なのか?

……この笑顔に何人の女の人が騙されたんだろう。誰かこの人逮捕して。


「てめぇ……くたばりやがれ」
「はっはっは安心したまえ私が紳士的にエスコートしてやる」
「すいません中佐いい加減にしないと大声で人呼びます」


こんなやつ絶対に上官にしたくねぇ!










……と思ってたのに。

冬が終る前にまんまとコイツは上司になってて(というかオレが国家錬金術師になったから必然そうなってしまっただけなのだが)。

しかも有り難迷惑に近い感じでオレの後見人だし。

いつのまにか敬語も使わなくなっていた。



「はっはっは。鋼の、食事でもどうだ」
「オレは男だっての!」
「気にすることはない。これを着れば十分に……」


ビラっという効果音とともに大佐が持ち出したのはヒラッヒラのワンピース。
問答無用で頭の中に式を立ち上げて両手を合わせる。


「ふざけんなクソ大佐」
「あ、なにをするんだい」


差し出されたそれに手をかざし分解する。ワンピースとして形づくられていた物は無残に布切れになった。























end



兄メ何話だったかの裏鋼パロ(っぽいの)
本家はロイアルだったけど、ロイエドに強制変更。
タイトルかなーり投げ遣り。

ロイと兄さんの日だからね。(6=ロイ、23=エド。めっちゃこじつけ)


2008/6/23


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