短編

□是が青い春と云ふヤツか。
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〜E〜



秋…いやはや過ごしやすくなったもんだ。

そういえば、青い秋で青秋ってのはどうだろう。
青春と発音にてるし、あ、ダメ?

でもほら、スポーツの秋とか文化の秋とか、青春ぽいイベントいっぱいだぜ?










「エド」
「ん?」
「な、なななな」
「菜?」
「なんだその格好…」
「ああこれ。似合ってるだろ」
「……うん」
「うわやめろよ捨て身で笑いとるために言ってんのに!見ろ鳥肌立った!」


恥ずかしくなってきた。ここは笑い飛ばすところなのに!この男本当変な時に冗談通じないんだ。だってこんなのオレに似合ってるはずないんだから。





秋。誰が決めたのか我が校では文化祭が行われる季節だ。
ベタな展開ではあるが誰からも意見が出なくて一人の夢見がちな少女の発案によりお姫様ものの演劇をクラスでやることになった。皆納得はしてないが否定もしなくてまあ決まったんだからやってやろうぜ!て感じでそこそこ盛り上がりつつ準備が始まった。そんなもんだ学生なんて。
もちろんオレはお祭り大好きだからなるべく参加しようと思った。部活や有志には参加していないからオレの活躍の場はクラスにかかってるからな。でもオレは皆と何かがやりたいだけでそんな大層な役とかはやるつもりはなかった。
第一お姫さまが出てくるファンタジーなんかよくわかんないし興味ない。ありきたりすぎる。
今一番興味あるのは錬金術っていう科学が発展した世界の物語だし、しかも漫画。そういえばあれダークファンタジーとか言ってたかも。
ま、だから客引きとかやろうかなぁなんて思ってたんだ。当日は風紀委員の見回りもあるはずだから宣伝係だと一石二鳥。
それにわりと面倒くさがりのロイのことだからきっとオレと同じ考えだ、だから風紀委員のオレらは一緒に同じことすればいーかなとか考えてた。

長時間の通学で疲れてんのか隣のロイは寝ていた。この間行われた席替えでオレらは隣同士だ。なんて偶然だろう。ああ落書きしてやりたいくらい整った顔しやがって。


「エルリックさん!」
「ぅぇは、え?」
「お願い!」


寝苦しそうに眉を寄せているロイを眺めていたら女の子たちが何かをオレにお願いしてきた。
そういえば入学当初に心配していた嫉みの視線は全然ない。皆良い奴だ。
全然話聞いてなかったから変な声を上げてしまうとやたらスカートの短いウィンリィが、ずずいとオレの前に立った。ウィンリィは幼なじみで昔からオレに対する態度は悪い。
今は文化祭に向けたHR中だから多分劇関係の話なんだろう。


「な、なんだよ?」
「お願いしてんのよ」
「やけに偉そうだな」
「うるさいわね。やるの?やらないの?てかアンタに拒否権はないわよエド」
「は…?」


オレは全く状況を理解できないしロイに聞こうにも寝てやがるし。
ウィンリィはびしりと黒板を指差した。


「アンタが姫やるのよ」
「……あ?」
「で、マスタング君が王子よ」
「……おーい、ロイ、起きろよ」


オレはあまりにも着いていけない状況に隣のロイを揺すり起こした。少し呻いて上半身を上げたロイに黒板を見るように言った。


「……おやすみ」
「だな、夢だよな、オレも寝る」
「こらアンタたちいい加減にしなさい」


黒板にはシンデレラの文字。
姫、オレ。王子、ロイ。
ちょっと待てあまりにもベタ過ぎやしないか。

オレたちはそれを現実と認めずに机に突っ伏した。





というわけでなんやかんやと衣裳合わせの日が着てしまった。オレは嫌々ながらも頑張った。ウィンリィのはちゃめちゃな演技指導にも耐えて頑張った。お祭り大好きだからだ。オレの我儘でこの雰囲気を壊してしまうほど嫌じゃないかもしれないし。
オレはウィンリィにオレたちが主役に抜擢された理由をある日聞いた。誰もやりたがらなかったから押しつけてやろうという意見と是非マスタング君にやってもらいたいという女子の意見により決定したらしい。しかし何故オレが姫なのかは納得いかなかったが、曰く、マスタング君って格好良くて紳士だけど少し無口で中々お話出来ないけど悔しいけどエルリックさんなら同じ委員会だしよくお話してるから大丈夫よね!らしい。なんじゃそりゃ。ロイに近づきたいならお前らがやれってんだ。ウィンリィにやれと言ってみたら、そんなドレス着るの嫌、だそうだ。
にこにこと差し出された衣裳はオレが卒倒したくなるくらいビラッとしたものだった。オレは基本的に女物の服は好きじゃない。動きにくいし汚しちゃいけないし母さんに怒られるし。制服は頑丈だから好きだ。いつだって男物ばっかり着て名前もこんなだからよく男に間違えられることがある。そんなオレがなんでドレス着なきゃなんないんだろう。
投げ遣りに今回の王子様の前に現われてみたらオレを見た途端固まりやがった。


「真面目に答えるなよ。オレむちゃくちゃ恥ずかしいんだぞ」
「……黙ってりゃいいのに」
「なんか言ったかコラ」
「身長低いから裾引き摺ってるじゃないか」
「うるせぇ!このドレスが長すぎなんだよ!」
「…黙ってりゃいいのに」


二回も言いやがった。どうせお淑やかじゃありませんよ、だ。
しかしオレが小さいわけじゃなくてこのドレスが長すぎなんだ。オレは小さくない。早く丈詰めろ衣裳係。


「マスタング君ーこっち来て」
「ほらお呼びだぞ王子さま」


ふん。王子様の衣裳なんかロイが着たら面白いだろうよ。オレの王子のイメージはかぼちゃパンツに白のタイツに胸元びらびらだ。あんなの実際着たら面白すぎだろ。よし、笑う準備してやる。


「……」
「あ、あは」
「笑いたきゃ笑え」
「え、うん、えとあの…」


あれ?
いざ王子の衣裳を身に纏ったロイを見たら何も言えなくなってしまった。なんでだろう。
長いマントに派手すぎない衣裳で、もちろんかぼちゃパンツも白タイツもびらびらもなかった。笑えない。
照れ隠しなのか顔を背けられた。眉間に少し皺が寄って不機嫌そうだけどそれもまた権威のありそうな出で立ちに見えなくもない。
オレがぼけっと見てたらロイもオレを見た。二人して硬直。なにやってんだ。


「……」
「……」
「なーにアンタたち見惚れあってんのよ!大丈夫よ二人とも似合ってるから」
「なっ違!」


……でもうん、ロイ、似合ってる、かも。
どうしよう。こんな奴と演技しなきゃいけないの?出来るのかオレ。


「あ、キスシーン追加するから台詞覚えてね」
「「……っ!?」」


ベタ過ぎやしないか。


「ま、もちろんフリよ」
「当たり前だ!」


ちなみにウィンリィは継母役だ。ぴったりじゃねーか、あっはは。
心の中で呟いた筈なのにウィンリィの手にはスパナが握られていた。こっち見るな。


「……なぁロイ」
「……なぁエド」
「「当日脱走しようか」」


もちろん、スパナを持った継母から逃げられる筈はない。何でスパナ持ってるかって?ウィンリィは機械が大好きだからだ。


でも委員長にオレらの見回りの時間たくさん入れてもらおう。なるべくクラスに居たくないしどうせならロイと一緒に色んなとこ回りたいし。

きっと、ロイは賛同してくれるよな。












END

あれ青春…?
冬に続く!


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