短編

□是が青い春と云ふヤツか。
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※以下をご理解の上お願い致します。
・豆にょた設定
・現代パロ
・高校生、同級生
・ロイ一人称俺
・E→エド視点
・R→ロイ視点








〜E〜



青い春?

いやいや、めっちゃ曇ってる春だよ。
雨ザーザーだし。





でもま、
是が青い春と云ふヤツか。





風紀委員。その名に惹かれた。

だって、なんか格好良いじゃん。
ビシバシ注意が出来る特権が得られるし。制服着崩し過ぎてたりとか、頭髪の違反とか、なんか見ててムカつく奴らを取り締まれるわけだ。
つまりは正義の味方!はっはっは。みてろ今時の学生ども。


「……君も一応現役女子高生だった筈だが?」
「一応とか筈とか過去形じゃなくて揺るぎない事実だから今現在スカート穿いてるんだよ」


何故かオレの思考に横槍を入れてくる男は、1−D37番『増田英雄』……あー違った、あれあだ名だったっけ。なんでそんなあだ名付いてんだこいつ。
そーそ、ロイ・マスタング。忘れそ…ロイロイロイ、うん、覚えたもう忘れない。こう見えてオレってば賢いからな。


「なあ増田」
「……マスタングだ。どーでもいいが君、取り締まる側がその服装でいいと思ってるのか」
「俺堅っ苦しい格好嫌い」


あれ、ファーストネームは覚えたのに、ファミリーネーム忘れてるとは。ま、どーでもいいや。

んだよ、リボンぴっちり付けるとか第一釦閉めるなんて苦しいだろが。スカート膝丈なんて鬱陶しいだろ。そのくらいはオレ的許容範囲。


「見本たるべき風紀委員がそんなんじゃ誰も言うこと聞かないだろ」
「うっさいなぁ……」


オレなら出来る!確信はねーけど自信はある。

それにしても、せっかくのオレの初活動の日なのになんだこの雨は。まぁ別に天気は関係ないのだが。でもなんとなく気分が乗らないのはこの空とこの男の所為だろう。

横目で見てみれば、ぴっちりと正しく着こなされた制服は嫌味なほどこの男に似合ってた。


「センパイは?」
「まだ。先生もいないけど、この前の説明のとおり始めよう」
「……何が楽しくて二人きり」
「文句があるのか」


大有りだ。とは言わないでおこう。





オレらの出会いは何の変哲もなく、高校の入学式だ。覚えてないけど。新しい学校、新しい仲間の中に慣れるのに必死だったんだ。それに必然的に決まった出席番号通りの席順で座ると、彼とオレは端と端の列だったから、話す切っ掛けもなく数日が経っていたし。クラスメイトの顔と名前が一致しない状況ではアレこんなのもいたかな?程度の認識しか出来なかった。
やっと大分近くの席の人と微妙に他人行儀の会話をするくらい馴染めた頃に、HRでクラス委員決めが行われたんだ。

も一度言うが、一目で惹かれたんだ。オレがなるべくして存在してんじゃないかと一瞬本気で思ったくらいだ。
任せて下さい先生方。オレは立派な風紀委員になります。
オレは『風紀委員』というフレーズにどきどきわくわくさせられた。中学には生活委員はあっても風紀委員はなかったんだ。何が違うのかと聞かれても困るけど、響きが違う。格好良い。

問答無用でオレはD組の風紀委員に決まったわけだが、各クラスから男女二人選出しなければならないらしく、一年間オレと一緒に委員やる奴は誰かなと当たり前っちゃ当たり前な興味で事の成り行きを見守っていると、あの男が立候補していた。

その時挙手していた男を見た瞬間、何故こんな男に今までちゃんと気付いていなかったのかと、激しく自分の中に疑問が浮かび上がった。
さらさらの漆黒の髪、整った顔立ち、同い年のはずなのに数日前まで中坊だったと思えない落ち着いた雰囲気。よく見ればクラスの女子の視線はほとんど彼に向かっていた。
彼がオレと一緒にD組の風紀委員に決まると、鋭い女子の視線が刺さった。

──最悪だ。
次の瞬間にはこう思っていた。
女たらしかコイツ。絶対面倒臭い。誰も好き好んで女の嫉妬の視線を受けたいものか。



「おはよーございまーすぅ」
「おはようございます」


オレらの仕事は、朝登校してくる生徒の身だしなみチェックのようなもの。校則を反復させ瞳を光らせながらも生徒達にさわやかな挨拶を。ってなわけで三学年合わせれば結構な数になるが律儀に挨拶をしていく。
隣の男は低血圧なのかあまりハキハキとしていない。女子には笑顔、やっぱ女たらしだ。ムカつくのはオレといるときは無表情ってこと。
雨が降っているから皆もオレと同じ気持ちなのか返事を返してくれる人は少ない。だけどムカつくから軽く睨んでおく。先輩だろーが関係ない。こちとら朝早くから此処に立ってんだぞ。


「あんた起きたの何時?」
「五時」
「うわぁ」


その時間確実にオレは夢の中でした。

まだ人も疎らな時間で、人が途切れると微妙な沈黙が訪れる。なんとなく話し掛けていた。話し掛ければ返してくれる。けど無愛想だな。


「一時間掛けて通学してる」
「うわあオレ絶っ対そんな生活ムリ。地元で一番近かった学校選んだんだもん」


入学の動機なんてそんなものだ。特にやりたいこともなかったし、どこの学校に行ってもそこそこやれると自負していたし。


「ここの学校……そんな簡単に入れるものか?」
「一応受験勉強頑張ったんだぜ?正月に」


二学期までの成績で普通に推薦で合格ラインだったし、担任から特待推薦の受験を薦められてたからやる気は全然なかったけど。
何回かウィンリィに八つ当りされたなぁ。なんでアンタはそんな余裕なのよ!?とか。


「さすがは特待生、か」
「あれ知ってた?」
「当たり前だ、入学式で答辞読んでただろ」
「ああそっか。そんなことしたっけオレ」


やたら面倒臭かったことしか覚えてない。だいたいあれは殆ど学校の先生が書いてくれたやつで、オレは心にもないことばかり喋った気がする。


「特待っつっても、別に中学の成績なんてそんな頑張らなくても良くなるし」
「あと少しだったんだけどなぁ……」
「特待狙ってたの?」
「ああ。オール5だったんだ」


オレもオール5だったんだから、もしかしたらコイツが特待だったのかもしれないのか。
でもオレなんか授業態度とか生活態度が良かったわけじゃないのになぁ。なんでオレだったんだろ。


「え?なんでダメだったんだよ」
「……プールが苦手で体育にBが毎年一つ……」
「あははははっ」


彼は言い難そうに視線をそらして言った。
昨日の体育の授業で男女合同だったから、勝負を吹っかけたらそこらの男には負けないくらいスポーツ万能のオレと張り合えるくらい運動できたのに。あ、自慢じゃないがオレは運動神経抜群だ。

オレがB判定を態度が悪いのにとらなかったのは、もちろん素晴らしい先生方のおかげもあるが、あまりにもテストの点が良かったからだ。ぶっちゃけ中学校の先生なんかテストの点しか見てない。よっぽど道を外さなきゃ大丈夫だ。それに生徒会長とか夏休みの宿題で論文提出とか陸上競技で優勝とか色々やってたし、内申点はばっちりだ。

それにしてもこの男泳げないのか。


「あははは」
「笑うな。水が苦手なんだ」


罰が悪そうに言う彼を見ていたらさらに笑いが込み上げてきた。
意外な弱点を知れた。


「エルリック……言うなよ?」
「あはははっ、言わねーよ。けどな、知ってるか?」
「何を?」
「この学校の体育、プールの点数落とすと単位貰えないの」
「……嘘」
「しかもご存じのとおり厳しい先生だしな」
「さいあく」


呆然とする男をまた笑うと、この一年、楽しくなりそうな予感がした。
とりあえず、水泳の授業が楽しみだ。

いつのまにか雨が上がり清々しい青空になってた。
春が、夏に向かってる。


「おはよーございます!」
「おはようございます」










END。
つまり青春
夏に続くよ!


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