短編

□Hydrangea
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※注意
・エドロイ風味
・大佐は複数人とつき合っててエドはそのうちの一人
・『複数人』は、誰を想像しても大丈夫です。軍人の人です。
それでも大丈夫なら↓


























「なあ、なんなのあんた」

悲痛ともとれるエドワードの声に、ロイはやっと顔を上げる。

「俺のこと、どう思ってんの」

真っ直ぐロイだけを見つめる金の瞳のには怒りがあり、その奥には悲しみもあった。

「――保護すべき子供で、部下で、国家錬金術師としては同業者で、」

そこで一度言葉を区切る。
エドワードの望む答えはまだない。苛立たしげに拳を握る力を強める。

「……恋人?」

からかうように疑問符のついた語尾に、ピクリと反応したエドワードはその勢いのままロイの胸倉を掴みあげる。

「っん、で!そう思ってんなら……!」
「なんだね」
「俺、あんたの、そういう奴だってなら!なんで俺だけを見ない……!」

眉を寄せるエドワードとは反対に、ロイは平素とそう変わらない面持ちだ。

「恋人、だよ。ただ私にはそれが一人じゃないだけで。君もそれは承知だろう?」
「……っ」

エドワードは歯噛みする。
ロイはただ若いなあなどとぼんやり思うばかりだ。

ロイの『恋人』は、エドワードの他にもいる。それが常識から外れていることだとしても、それで成り立っていた。
関係を変えるための告白をしたときに、エドワード自らそれでもいいと頷いた。そのうちの一人でもいいから、ロイの特別になりたかったのだ。
他の恋人が誰なのかは、知っている。彼らは、彼らもロイを大切に思っていることを知っている。
だからこそいいと思った。
だが、

「だが、」

するりと伸ばされたロイの指がエドワードの頬をなぞる。その感触に気がいって、腕の力を緩め、ロイは首もとが楽になる。

「『今』見ているのは君だけだ」

頬を捕らえ、そのまま引き寄せる。唇を重ね、形を確かめるように押し付ける。
引き結ばれたエドワードの唇を無理に割ることはせず、ただ合わせただけで離れた。

「……子供っぽいって、思ってんだろ」
「いや?誰にでもある感情だとは思うがね」
「あんたにはない」

きっぱりと言う少年に、心外だとばかりに口端を上げる。

「私にだってあるさ。私以外がお前たちの傍にいたら、それは私のものだと邪魔してやりたくなるくらいには」
「はっ、とんだわがまま姫だな」
「姫とはなんだね。君の方がよっぽど相応しいと思うが」

頭の後ろまで手を伸ばし、きっちり編まれた三つ編みの先のゴムを外し、自由になった金糸を手櫛で梳く。面白いくらい指通りの良い髪は、くせになる。

「俺はじっとなんかしてらんないの。大佐はいつだってここにいるじゃん。そんで人に指示してばっかり。ほうらな、お姫様」
「それが私の仕事なんでね」
「――……俺は、いつも此処にいるわけじゃねーし。いつだって会いに来るのは俺ばっかだし」

エドワードは、それが不満だった。
国家錬金術師といえどもエドワードは悲願のために全国各地を走り回っているため一つところに止まることはない。必然的にエドワードから訪れなければロイに会うことはまずない。
対してロイの他の恋人たちは、いつもロイの傍にいるし、同じ職業である。エドワードのいない間、いくらだってロイと共にいられる。
圧倒的に不利な立場にいるエドワードは焦るばかりだった。

「俺、もっと大佐と一緒にいたいのに」
「可愛いことを言うね」
「可愛くねーし。すげードロドロしてる」

綺麗な感情でないのは自覚している。本当は口にしたくもなかったが、あまりにもロイが自分を見てくれない気がして、勝手に言葉を紡いでいた。
本当は、一緒にいたいなんて甘いことを言わず、閉じ込めて二人だけで生きたい。そんな情動、どうにもできない。

「素直でいいではないか。私の周りは、理性で抑えて変に回りくどい言い方をするやつばかりだ」
「……大佐もね」

椅子に座るロイを、エドワードは立ったまま見下ろしている。普段見下ろすのはロイのほうなので、新鮮な気分だ。
なにを言ったって、エドワードがただ一人になれるわけではない。それは初めから痛感していたこと。
僅かに切なげな色をその瞳に含ませて、ゆっくりと閉じながら今度はエドワードから唇を寄せていく。
触れ合うだけから徐々に深くして、舌を出せば見計らったようなタイミングであっさり開き、受け入れられる。少しの間好きにさせ、まだ若さ故の勢いばかりの少年と形勢逆転する。

「ん、ふ……ぁ…」

慣れたようにエドワードの口内を好き勝手にし、感じやすい部分ばかりを動き回る。
こうして少年に深い愛を教えるのは、ロイの楽しみでもあった。きっと次には吸収して仕掛けてくることだろう。

「ぁ…ん……」
「…っはぁ……」

十分に絡み合い満足すると、糸を引きながら離れる。飲みきれず口の端に垂れた唾液をロイの指が掬う。
久しい興奮と息苦しさに肩で息をするエドワードは、身体を自身で支えられずロイにもたれかかる。

「……なあ」
「なんだね」

ロイは焦ることなくエドワードの髪を撫でて遊んでいた。
そんな余裕を悔しいと思いながらもエドワードは男の肩口に顔を埋めながら息が落ち着いたのを見計らって話しかける。

「紫陽花って知ってる?」

何故今花の話を持ち出してきたのかわからないが、問いかけであって答えは求めていないようなのでそのまま先を待つ。

「あれってさ、アントシアニンとか酸性度とかアルミニウムイオン量とかによって色が変わるんだって」
「へえ」

睦言にしては科学者然としているが、そうは言ってもそれが彼の気質だ。

「この時期が一番綺麗なんだぜ。学名は水の器って意味らしいし。雨の多い季節の花なんだよ。どっかの無能と違って、雨を今か今かと待ち望んでるんだ」
「けったいな花だな」

雨には、良い思いをさせてもらった覚えのないロイは特に興味を示さない。もっぱら今の興味はエドワードにのみそそがれ、指先で絡めたり遊ばせていた髪を一房とり、口づける。感触がないはずのそれも、ロイにされるだけで熱を持つ気がしてくる。

「……大佐にぴったりだ」
「何故?私は雨は嫌いだよ」
「ほんと、今のあんたにお似合いなんだよ」

そこに在る土や状態によって色を変える花。
今目の前にいるロイはエドワードの知ってるロイであって、エドワードの知らないロイではない。彼は間違いなく、エドワードの知らない『色』にもなれる。
エドワードにはこの色、別の誰かではあの色。相手によって化学反応を起こす彼は決して一色にはならない。
何故なら紫陽花の花言葉は『移り気』。

「嫌になるぜまったく」

エドワードがため息を吐く前に、その出口をロイが塞いだ。
もういいとばかりに性急に絡め捕っていく。

ああ駄目だ。紫陽花は色を変えない。
エドワードの前では、その『色』でしかないのだ。たった一色、少年だけのその色。

「そんなこと言ったら楽しくないよ、私の小さな王子様?」
「――……ちっさいは余計だ。いつか攫ってやる」
「楽しみだよ」















end

…(・∀・)ゴメンナサイ

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