捧物

□淡い期待
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「鋼の!」
「ん?」
「好きだよ」
「は?」


一ヵ月ぶりの東方司令部。
面倒だけど嫌味言われるよりはマシだと頑張って書いた報告書。それを片手にマスタング大佐の執務室を訪れたのは一時間前。
さて、一時間前から今までを振り返ってみようか。



「こんちわ」
「ああ、鋼のか。また空振りのようだな。来るのが早いじゃないか」
「うっさい」


その通りだからこれ以上なにも言い返せない。すげぇムカつく。
恒例行事のごとく彼の執務室を訪れてみればこれまた決まったかのように彼からの嫌味。普通に挨拶できないのかこの男は。だからこれまたお決まりで俺も切り返してやる。
でも実はこのやりとりは嫌いじゃない。


「大佐こそ、いい加減中尉を困らすのやめたら?」
「別に故意にやってるわけじゃないんだがな」
「嘘つけ」
「なぜそう思う?」
「アンタの存在が胡散臭いから」
「ひどいなぁ」
「やっぱり日頃の行いだろ」


何ら変わりのない、いつもの言葉の応酬。どこで彼の気持ちに変化があったのかなんて皆目見当が付かない。


「話はとりあえず一段落してからにしよう。この間手に入れたばかりの文献だ、君の興味を刺激するものだと思うよ。私から見てもおもしろかった」
「ん、ありがと」


手渡されて受け取った物を見てみると、作者名は俺が前から見たかった人のものだった。結構探したけどなかなか見れなかった人体についての文献。やった。


「よくこれ手に入ったなぁー!」
「まぁ、ちょっとね。一時間程で終わると思う」
「りょーかい」


そうして俺は嬉々としてソファを陣取り本の文字にのめり込んだ。

時々視線を感じた気がしたが、集中した俺にしてみれば蚊よりもっと小さい……だれが豆かっ俺は小さくねぇ!!……そんなの位にしか感じなかったから、まったく気にならなかったのだ。










「好きだよ、鋼の」
「えーっと……」


で、今に到るわけ、だ。
若干遠くなった思考が帰ってくると、彼はまた言った。表情は真剣そのもの。
というわけなのだが、何がこの男にその言葉を言わせるきっかけを与えたのかさっっぱりわからない。
つかなんで好き好き連呼するの?


「どうしたんだよ大佐?頭打った?変なもん食べた?」
「……すまないね、言いたくなったんだよ。返事は聞かないから。自己満足だ」
「ふぅん」


困ったような笑顔。困ってるのは俺だと思う。

スキ……好きってアレかな?
ついに俺様の天才的頭脳に惚れたとか。俺ってば格好良いし頭良いし背高いから人気者なんだよな。一言で表わすなら眉目秀麗。うん、そっか。


「俺も好きだよ」
「……は、」


あれ、おもしろい。
いつも余裕な表情で嫌味ばかり言う彼が、鳩が豆鉄砲くらったみたいな、すっげぇ間抜け面してる。

大佐が言ったから、俺も常々思ってたことを素直に言ってみた。


「っあははは!変な顔っ」
「は、はがねの……」
「俺は好きだよ」
「っ鋼の……っエドワード!!」
「大佐の顔」


喜んだと思えば、撃沈した。
なんだよ、誉めてんのに。

黒い髪と瞳、整った顔立ち、形的には俺の好み。性格は置いといて。

余計なこと言わなきゃ良いんだ。声も嫌いじゃないし。


「は、ははは……ありがとう……」
「うん」


しばらくしたくらいに、中尉が「無能が仕事してくれないのよ」とか言ってた。やっぱ駄目なヤツ。










END

6000キリありがとうございます、
睡蓮様に捧げます。

……リクを頂いてからすでに二つの季節がやってまいりました。夏だったのにもう冬ですね。
誰でしょうか一月で終わるとか大見栄きったバカは。私でございます。

鈍感エドをとことん口説き倒すベタ惚れ大佐
とのリクエストでしたが、いかがでしょうか…?(ドキドキ)
大佐がヘタレってことが伝われば、と思いますが…(笑)


突き返しOkです。
睡蓮さまのみお持ち帰りくださいませ。



2008/12/26 鈴流優美


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