短編
□戒めの記憶
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「……大丈夫」
「大佐は悪くないよ」
「俺はアンタがどんな奴でも、」
「信じてるよ」
戒めの記憶
「マスタングさん」
夜 フラリと外に出れば道行く御婦人に声を掛けられる。
いつもの事だが、鼻につく香水の匂いにはどうもなれない。
「今日は軍服ではないのね。プライベートかしら?」
「こんばんは、ミセス・パティリア」
金の髪の彼女は上品にニコリと笑う。それに対して自分も笑顔を作る。
確か彼女は軍関係者の奥様だったかな。
「その格好、とてもお似合いよ」
「ありがとうございます。ところで貴女はこんな時間にどうされたんです?」
「ただの散歩よ。夜風に当たりたかったの」
優雅なものだ。この街の治安を知らないのだろうか。
「この辺に女性を狙う悪い奴らが出るそうですよ。ですから女性の一人歩きはいけない」
「まぁ」
多少の驚きは見えたがおそらく彼女はあまり気に掛けていない。それほど大事にとっていないのだろう。
これ以上彼女と会話していてもしょうがないな。
「私は今私服警備中でして。これで失礼させて頂きますが、くれぐれもご注意願いますミス・パティリア」
「そうでしたの。マスタングさんが警備して下さるなら安心ですわ。なんと言ってもイシュバールの英雄ですもの、主人がいつも言っていますわ」
イシュバールの英雄……か。