短編

□バレンタイン
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「はぁ……どーすっかな」

エドワードは手元の箱を見ては溜息を漏らした。

今日は2/14。
世間はどこもかしこもバレンタイン一色。どこぞのお菓子会社が広めたバレンタインはいつしか人々にとっては一世一代のイベント。
ある人は日ごろ世話になった人へ、ある人は想い人への告白、ある人は……

「大佐に……」

コイビトに。それぞれの想いを込めてプレゼントを贈る。
エドワードの手にしている綺麗に包装された箱の中には、バレンタインの定番、チョコレートが入っていた。渡したい相手、彼の為の甘すぎないチョコレートが。

「はぁ…そんなんできるかよ」

かれこれ数時間。エドワードはずっとこの調子だった。今エドワードのいる場所は、司令部が見える公園のベンチ。
偶然この日にセントラルへ来たのに、まだ司令部へ顔を出していない。ロイにチョコレートを渡すのが気恥ずかしくて、なかなか行動に移せないでいた。
弟のアルフォンスは図書館に行っている。

いい加減、日も傾いてきてエドワードの身体は冷え切っていた。
エドワードはこのままでは埒があかないと察し、渡すのをやめようと宿へ帰ろうとした。その時、足音を聞いた。

「…?」

立ち止まり何気なく振り返ると、青い軍服を着た軍人が立っていた。

「大佐……?」
「やあ、鋼の」

ロイはにこやかにエドワードに近づいた。
何故此処にいるんだとか仕事はどうしたんだとか、そんなことより真っ先にエドワードはチョコレートの入った箱を後ろに隠した。

「?何を持ってるんだ、報告書か?」
「あ……」

チョコレートを渡す事しか考えていなかったエドワードは報告書なんて言われるまで忘れていた。

「わり……ったまたま此処で休憩しててっ……司令部には後で行こうと思ってたから報告書は持ってない……」

咄嗟に考えた言い訳でなんとかエドワードはごまかした。

「休憩?どこか具合でも悪いのか……こんなに冷え切ってるぞ」

そっとロイの手がエドワードの頬に触れた。

「別に……、どこも悪くない」

エドワードは顔に身体中の熱が集まっていくのを感じその手を払いのけた。

「ならいいよ」

少し残念そうに身を退いたロイに目を合わすことが出来ずに、視線をさ迷わせるとロイが持つ紙袋に止まった。

「ああ、これか。今日はバレンタインだからな」

エドワードの視線に気付いたロイは紙袋の中身の説明をした。
紙袋からは溢れんばかりに包装された箱が入っていた。

紙袋から見えた箱だけでも、エドワードでも知ってる有名なお菓子屋の箱や派手な包装のものばかりだった。
それに比べてエドワードのはそこらの普通のお菓子屋で買った物で、全然地味だった。

「いや参ったよ。去年より量が増えていて持ち帰るのが大変だ」

モテる男は大変だと言っているロイとは裏腹に、エドワードは俯いて唇を噛み締めていた。


どうせロイは俺なんかにチョコ貰ったって嬉しくないだろな……。
俺、悩みまくって馬鹿みたいじゃん。


「ごめん、俺用事あるから……っ」
「だが、本命から貰えていないんでね。悲しいな鋼の」

踵を返して逃げようとしたエドワードを、ロイは持っていた袋を落として、後ろから抱き締めて捕まえた。

「なっ」
「その手に持っているのは、誰宛ての物なんだい?」
「〜〜っ!!」

耳元で囁かれエドワードの身体から力が抜け落ちた。

「こ、れは」
「ずっとこのベンチに座って司令部を見ていたようだが」
「見てたのか…!?」

エドワードからロイの表情は見えないがきっと意地の悪い笑みを浮かべているに違いないとエドワードは確信した。

「それが気になって早く仕事を切り上げてきたんだ」
「……っ」

先程まで冷え切っていたエドワードの身体はロイの体温で温かくなっていた。

「……あの…っその……」
「ん?」

エドワードは赤面して吃っている。だがロイはお構いなしにエドワードを抱き締め耳元で甘く囁いている。

「っ〜〜!!いい加減にしろこのバカッ!!」

ドンッと突き飛ばしロイと一定の距離を取ったエドワードは自棄糞になっていた。

「な、んだよっ!あんた俺から欲しいわけ!?そんなにいっぱい貰ってるくせにっ」
「この沢山の女性からより本命から貰いたいな」
「……本命って……俺?」

身長差から上目で見つめてきいてみれば、満面の笑みで返ってくる答え。

「勿論。君以外の誰がいる?鋼のが私の恋人だろう?」
「っっ!!あんた、反則だ……」

プイッとエドワードはそっぽを向いたが箱を持った手はロイへと突き出した。

「……俺様がわざわざセントラルに帰ってきて用意してやったんだ。有り難く受け取れ」
「ありがとう、エドワード。やはり私宛てだったんだな」

渡してしまえば簡単なもので、エドワードはニヤリと笑うとさっきのロイの口真似をした。


「勿論。大佐以外の誰がいる?あんたが俺の恋人……なんだろ?」


二人一緒に微笑んで、その後の時間はチョコレートのように甘く過ごした……──。

























End

2007.10/21修正
 

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