短編
□あなただけ
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「あー!もうテメーなんか知るかーっ!!」
自分の上司に書類を届けようとした俺の耳に届いたのは聞き覚えのある少年の怒鳴り声。
「じゃあなっ」
その言葉に次いで今まさに上司、大佐の部屋への扉を叩こうとしたとき、扉が開いて勢いよく少年が出て来た。
「っと、わっ!少尉っ」
勢いのあまりにぶつかってしまった少年……エドワードは俺に謝ると俺の後ろに隠れた。
「大将?」
「ハボック少尉、鋼のを見なかったか!?」
「え、」
エドは小柄な為、俺の後ろにすっぽりと隠れてた。
後ろでエドが首を振っているのを感じ、大佐をごまかした。
「あー…いや、大将でしたらあっちに行ったっスよ」
「わかったっ」
礼を言うと大佐はその方角に走って言った。
あー……上官騙しちゃった。まいっか大佐だし。
「おい大将、どーしたんだよ。大佐となんかあったのか?」
「……少尉、大佐戻って来るだろうからどっか行こうぜ」
丁度自分の仕事はこの手にある大佐に渡さなくてはならない物だけだった為、書類は大佐の机に置いて、いいぜと言って街に出掛けた。
それに、エドに誘われた俺は少し心が弾んだ。
俺らは司令部の近くにある喫茶店に入った。
軍服のままの俺は少し目立ったが、気にしない。
「…なぁ大将」
「ん?にゃに、しょーい」
エドの姿を見て思わず苦笑いが零れた。
この店自慢、『特大フルーツパフェ』を口に詰め込んでいる。
少し、ほんの少しだけ、デートか?……なんて期待してたけどムードもなにもない。
「うまいか?」
「ん!すっげー美味しいっ」
「そっか、良かったな」
あ〜そんな嬉しそうな笑顔で…
これはこれでいいかも…なんて。
「あ、そういえば大将」
気になってたことを危うく忘れそうになるとこだった。
しっかりしなければ。
「大佐となんかあったんか?」
さっきまでの嬉しそうな表情は一気に変わった。
怒りとも、悲しみともとれる、表情で。とにかく明らかに機嫌は急降下したことは読み取れる。
「……なんもねーよ」
そういうとその表情のまま黙々とパフェを食べ続けた。
その空気に耐えられなくなって俺は話題を変える。
「大将は甘いもん好きなんか?」
「ん…好きかな」
まだ機嫌悪そうだけど、話題転換には成功したな。
こんな幼い姿を見せられたら、兄になったような気になる。喜ばせてやりたい、笑っててほしい。
「じゃあさ、俺すっげぇこの辺じゃうまいって有名なケーキの店知ってんだ。今度行こうぜ」
「えっマジ!?俺ケーキ好きっ」
よし、機嫌回復だ。
おまけに次の約束も取り付けた。また俺の心は弾んだ。
「なぁなぁ少尉っ!!じゃあさ…」
「あ、ちょっと動くなよ」
また嬉しそうに俺に話しかけてきたけど、エドの頬に着いたクリームが俺の目に止まった。
「ここ、ついてたぜ?」
指でそのクリームを掬い取ってそのまま自分の口に入れた。甘い。
少しキザっぽかったか?
「あ…りがとぉ」
照れ臭いのか、赤くなっちゃって。
可愛いなぁ…。
「あ?」
「どーしたんだ、少尉?」
……あれ?
おかしいな、なに男相手に可愛いなんて思ってんだろ俺。
そういえばさっきから色々おかしい。
……あー、小首を傾げちゃってほんと可愛い…。
「お〜い、しょーいー」
だーかーらー!!なんでエドに可愛いなんて……!
よくわからん感情に頭を抱えたくなった。
「おい、ハボック少尉っ」
「えっ…、あぁ、なんだよ?」
「なんでぼーっとしてんだよ」
「あー、あははー」
「笑ってごまかすなっ」
白い柔らかそうなほっぺを膨らましちゃって、やっぱり可愛いなぁ…。なんかもう男とか女とかどーでもいいや。エドは可愛いんだ。
と、一人で完結させた。
「……大佐と何があったか、気になる?」
ふと、エドが問い掛けてきた。
普通に気になるだろ。
あんな必死でおもしろい大佐、そんなに見れるもんじゃない。そうさせたのが何か知りたいのは当然だ。
「そりゃあな。でも、話してくれるんか?」
「パフェ美味しかったし、ケーキの店連れてってくれんだろ?」
等価交換、かな。
そう言って話し始めてくれた。
……心なしか赤面しながら。
「あ…のさ、大佐が…」
エドが言うにはこうだ。
久しぶりにこっちに来て、とりあえず大佐に報告書を提出しに来たけどいきなりセクハラされた……らしい。
「で、殴って、ムカついたから逃げたの……」
「そりゃまた職場でセクハラとは。職権乱用だな」
「だろ?」
「……お前らデキてんのかよ?」
なんて、
からかったつもりだったのに顔中真っ赤にして否定した。ボキャブラリーが尽きる迄の暴言が一緒だったが、その顔じゃ意味なんかない。
もしかしてマジかよ?
……なんか気にいらねぇ。
ムカムカするんだよな。
「よし大将、大佐に反撃しようぜ」
「どーやって?」
「それはだな……?」
苛立ちながらも浮かんだ悪戯。
エドを独占しようってんなら安いもんだ。
みてろ大佐。
俺は上官に対する発言とは思えないことを心の中で呟いた。