長編

□He is an angel.
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 “助けてあげようか”


嗚呼、俺死んだんだな。










【He is an angel.─彼は漆黒の天使─】









迂濶だった。


道を歩いていたら、公園でボール遊びをする幼い子供達が目に入った。楽しそうに走り回る彼らは実に無邪気で微笑ましい。ただの、ありふれた光景。
あっ、と一人の子供が声を上げた。その子が投げたボールは受けとるはずの少女の頭上を通り過ぎ、公園の外の車道に出てしまった。
転がったボールを拾いに、よく周りを見ることなく少女は車道へと足を踏み込んだ。おそらく彼女はボールしか見えていない。
駄目だ。思った時には遅かった。少女の背後から猛スピードで車が近付いてくる。少女に気付いた運転手は慌ててブレーキを踏もうとした、だがこの距離じゃ間に合わない。

考えるより先に、身体が動いた。

「……っ」

走り出した。車より先に少女に行き着く事が出来た。彼女を抱えて避けようとした。
しかし、車はもう目と鼻の先。避ける事は不可能。俺はヒーローにはなれないみたいだ。
少女を庇う様に抱き締め、来るであろう衝撃への恐怖でギュッと目を閉じる。

なんだか他人事のように思えてくる。

空が、青い。
鳥になった気分とはこういうのを言うのだろうか。
何か衝撃があったと思った時には、何も聞こえなかったし感じなかった。

ただ、飛んでる、と思った。
だって、青い空がすごく近く感じられる。
鳥はもっと楽しく飛んでいそうだが、全然楽しくはない。

はねられたと気付いた時に、せめてこの少女だけは守ろうと思ったのか無意識のうちに抱き締める力を強めた。

地面が近付く直後、周りの音が鼓膜を伝わり入ってきた。
通行人の叫び声がする。
ブレーキをかけてタイヤが擦れる音がする。

抱き締めている少女の、鼓動が聞こえる。

この娘には傷を負わせたくない。無事でいてほしい。コンクリートの地面に打ち付けられたら大変な事になるのは目に見えていた。
自分の身体を上手く反転させ、この娘のクッションになり背中から落ちる。


そしてやっと、痛みを感じる。

一瞬、ありえない位の激痛を感じた。
だか、痛みを感じている暇もなく、意識が薄れてくる。


いてえな。
骨、何本か確実にイってる。
俺、死ぬのかな。
呆気ねーな。

朦朧とする意識の中、聞こえたのは人々の戸惑うざわめきと、少女の泣き声。

よかった、助かったんだ。
こんな俺でも、守れるもん、あったんだな。


そして、最後に見たのは

青い空。










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