短編

□確率
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もし、オレの母さんと親父が結婚しなかったら。

もし、オレが禁忌を犯さなかったら。

どーなってたと思う?







「……何をいきなり」
「統計学。」


もし、オレがリゼンブールにいなかったら。
もし、あの時の書類に不備がなかったら。
もし、オレが手足を失っていなかったら。
もし、大佐が中佐じゃなかったら。
もし……


「君と出会えなかった、な」
「そう。奇跡だ」


いったいどれだけの確率でオレはこの男と出会えたのだろうか。
多分それは、オレには数えることのできないような無限大の尊い数字。


「でも、世界は等価交換なんだ。言い換えれば必然ってことなのかもしれない」


等価交換で決まった範疇を越えなければある程度の規則性が生まれ、それは物事を引き起こす。
言うなれば全ては決まり切った必定。


「それはどうかな」
「……?」


なんとなく、彼は自分と同じようなことを考えていると思ってた。


「それが真理だと言うなら、君や私の気持ち……思考も全てが必然の上に成り立つと思うのか。ヒトの思いが枠にはまったものでしかないと言うのか?」
「……」
「花を美しいと思うのも、この書類にうんざりするのも。 ……君を、愛しいと思うのも。全てが必然なのか?想いは、誰かに決められたものなのか?」


オレは自分の考えが間違ってるとは思わない。
けど、大佐の言うことも間違ってないから、やっぱり大人だなぁ……って感じだ。


「君は思考の全てを決め付けてるのか?」
「じゃあオレの考えは間違えだっての?」
「そうは言わない。哲学は答えが出ないものだよ」


言葉がつまる。やっぱ子供の考えなんて甘いのか。


「……決まってるもん」
「ほう?」


だけど譲らない。
ちょっと意地悪な大人は面白そうに笑ってるけど。


「大佐がオレのこと好きなのは決まってることだ」


勝ち誇ったようにオレが指を突き付けたら、大佐は鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してから、すっごく嬉しそうに笑った。


「そうだな」
「ずーっと前から決まってるっつの!!」



(結局オレはこれが言いたかったわけだ。)







End


2008/3/28


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