猿に首輪(仮)

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「いよっしゃぁ!いい感じ!」
無事討伐目標を達成出来たと喜ぶルビィと、まだ眠そうなブラッド。そして呆れと不安のスフェン。
その三人はインフォに戻るために扉に向かって山を歩いていた。
結構離れた距離まで来てしまっていたので、戻るのにも時間がかかる。
魔術を使ってしまえばそれまでだが、ルビィだけ先に行ってもポイントはもらえない。
参加した全員が戻らなければポイントは手に入らない。
だから今は我慢する。
と言っても、今からダッシュで戻って“三ツ星”クラスのクエストをこなしても、今終えた“六ツ星”クエストのポイントと比べたらほんと雀の涙のようなものだ。
だからこそ、大量に入る“六ツ星”クエストは何としてでも受けたかった。
「それにしても、よくブラッドもクエストやろうと思ったね。こんな早い時間に」
普通の人にとっては当たり前に起きている時間だが、睡眠魔のブラッドでは休日この時間に起きているのは珍しい。
だからこそスフェン先輩は不思議がっていた。
「なに、人が気持ちよく眠っているところにこのチビが叩き起こしてきたんだよ」
「チビ言うな!」
「それでも連れて行ってあげるって、二人とも仲良いね。いいなー、嫉妬しちゃうな」
「は」
「え?」
「こんな風になるなら、始学期に無理にでも俺の部屋で同居させておけばよかった」
「そ、そんな!先輩の迷惑かけられませんよ!?」
「ブラッドは良いの?」
「拒否権なんてなかったので!だからせいぜい利用しようと思ってるだけです!」
「えー?俺から見たら仲のいい兄妹なんだけど」
「「―――」」
スフェン先輩の『兄妹』と言う言葉にルビィとブラッド、二人の顔が険しくなった。
「二人とも、顔すごいよ?」
「こんな妹いらん!そもそもこいつはペットで玩具だ」
「いやぁ、ブラッド。だからそんな扱いはだめだって」
「あたしだっていやですよ!そ、それにあたし、長女ですし!」
「あぁ、妹のほうが背が高いとかどうとか?」
「きいいいいい!いちいちうっさいバカブラッド!?それにね!」
そこで一度言葉を区切り、ルビィはブラッドの前に回り、ビシッと指を突きつけた。
「あたし、兄さんみたいに慕っている人がいるんだから!」
「は?」
「へぇ、そうなんだ。ルビィちゃん、どんな人?」
「こんな生意気チビに慕われるとか、そいつも可哀想だな」
「あぁいえばこう言う!言っておくけど、その人はあんたよりも優しいしカッコいいし、なんでも知っていて紳士的で、優雅だし爽やかで笑顔がステキだし、それにそれに……って、なによその顔!?」
ルビィがその人のことをぺらぺらと述べていると、ブラッドがさらに変な顔をしていることに気づいた。
眉間にしわが寄って、胡散臭いものでも見るような目つきだ。
ひどい!
「ホントにそんな人物が存在するのか?」
「失礼ね!アンタみたいなドメスティック俺様貴族と違ってとってもとってもとーっても―――」
今まで強気だったルビィだが、急に言葉に詰まったのか口を閉ざして俯いた。
「ルビィちゃん?」
「どうした?」
突然押し黙ったのだ。
不思議がらないほうがおかしい。
どうしたのかとスフェンは軽く膝を曲げ、ルビィの顔を覗き込んだ。
すると、ルビィの顔がものすごく真っ赤だった。
自分の発言が恥ずかしかったのか、我に返ったか?
「……かかか」
「か?」
「カッコいいんだからーーー!」
「ルビィちゃん!?」
それだけ言い捨てて、何故かルビィはその場から走り去ってしまった。
風の魔術がまだ生きていたのか、その姿は一気に小さくなってしまった。
「「……」」
残された二人はと言うと。
「何だあれ?」
「うーん。あれは相当だね」
ブラッドには何のことなのかさっぱりわからないのだが、スフェンには何か感じ取ったのだろう。
顎に手を当てて「ふ〜ん」とうなずく。
「何が『相当』なんだ?」
「ルビィちゃんの、そのお兄さんに対する憧れ度」
「はぁ?」
「ルビィちゃんの村のお兄さんなのかな?昔からだろうね、アレ」
「よくもまぁ、あのくそ生意気な猫を飼い慣らした奴がいるもんだな」
「羨ましい?」
「何が?」
「ルビィちゃんに素直に慕われること」
「なんでだよ」
「俺は羨ましいよ?そもそもブラッドとの仲の良さもずるいと思っているけど」
「お前、おかしいな」
「そう?ならなんでわざわざ“DSC”なんて着けるのかな?」
「……」
こういう時のスフェンはこ憎たらしい。
まともに答えるとますます調子に乗る。
言葉での勝負ではスフェン相手に勝つには骨が折れる。
だから、ここは沈黙を通す。
別に何とでも思うがいい。
アレは懐かない猫であって、暇つぶしの玩具なのだから。


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