猿に首輪(仮)

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「―――“スモーキークォーツ、練成、オートマチック、”」

ブラッドとまともに戦えばルビィに勝ち目はない。ならばヤツの隙を突いて門を抜ければルビィの勝ちだ。
さすがにヤツでも学園の敷地外に出たら追撃はしてこないだろう……多分。
宝石に詰め込んだ魔術で二挺の自動拳銃を生み出し、ブラッドが仕掛けてくるよりも先に撃ち出す。
倒そうとは思わない。
今はブラッドを門から動かすこと。
二挺の拳銃が火を噴いた。威嚇射撃などではなく、本気で狙いに行く。どうせ当たらないのだから。
ルビィの予想通りブラッドは難なく右に避けた。もっと門から離さなければ。追撃はやめない。
弾は風を固めたもの。詰まることも弾切れの心配もないが、この程度でブラッドを倒せるわけがない。
“七ツ星”の、最強の男相手に。

(『宝星色素方陣(ほうせいしきそほうじん)』を展開出来たら勝てるかもしれないけど、展開するには時間がかかるし……)
今は詰め込んだ知識と短縮詠唱(ショートスペル)で対応するしかない。
射撃を続けながら次の魔術を唱える。

「―――“スペサタイト、暴れろ、”」

今まで風の銃弾を撃ち出していた銃口から火が噴いた。火炎放射のように激しい炎がブラッドに襲いかかる―――までは良かった。

「!?」

あと少しと言うところでブラッドに炎に届きそうになった時、そのブラッドの姿が蜃気楼のように揺らいだと思ったら姿が消えた。魔術を使ってかわされた。
慌てて周囲に目を配り、次の魔術を展開しようとした―――が。

「あぅっ」

ルビィの左から、ブラッドの剛腕が襲い掛かる。咄嗟に銃を盾にガードはしたが、小さな身体のルビィにブラッドの一撃は痛いし重い。吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられるが、なんとかそのまま地面を転がり、すぐさま態勢を立て直す。

(アイツ、今絶対バングル狙った!!)

バングルさえ外せばルビィは魔術が展開出来ない。無力化するには一番賢いやり方だ。ルビィはその方法に「なるほど」と思いながらも、ルビィにブラッドが勝つためのヒントを与えてしまったと同じ事だ。
ならば、圧倒的戦力差があったとしても、バングルさえどうにかしてしまえばルビィはあのにっくきブラッドに勝てる。それはそれで難しいことだろうが。
銃でガードしても、左腕の痺れは酷い。
これでは銃を撃つのは無理だ。それに距離を詰められたら今度は体格差でやられる。
一旦距離を置こうと離れようとしたところ、ブラッドが動いた。
バングルの宝石がルビィに見えるように左腕を前に掲げると、赤と黄の二色の宝石が輝いた。
同時展開、無詠唱。
炎と雷による攻撃。
嫌味ったらしいほど“七ツ星”の実力を見せつけてくる。
さすがにそれを受け止めるには無理があるので、ガードではなく回避に専念。
幸い風の魔術はまだ生きているので避けるのは容易いが、そこはブラッド。それだけでは終わらない。ひとつ魔術を避けたとしても次から次と複数の魔術の雨がルビィに襲い掛かり、回避か相殺するのが精一杯で反撃に移れない。
やはりこれは経験の差か。ランクによる差も大きいのだろうが、それ以上にブラッドとルビィの経験の差が大きい。
どうにかしてブラッドを出し抜かなくては。
このままでは消耗戦。時間が経てば経つほど、他の生徒が騒ぎを聞きつけやって来るかもしれない。まぁ、ブラッドを相手に獲物を横取りするような度胸ある生徒はまずいないだろうが。それでも退路を塞がれたらおしまいだ。
雨の様に襲い掛かる氷を寸でかわし、拾った石をまっすぐブラッドに投げつける。

「―――“ウバロバイト、炸裂、”」

ブラッドに撃ち落とされる前に、石を破裂させ、勢いよく散らす。
一瞬、ブラッドの動きが止まった。魔術が止む。この時、門までの距離はお互い同じ―――いや、ルビィの方が近い。

「―――“ジルコン、加速、”」

今しかない。チャンスを逃すな。
素早さを上げる魔術を重ね掛けする。
すると、脚に風が一気に集まりルビィのスピードが倍になった。速すぎて身体にかかる負担も大きくなるが門を抜けるまでだ。それくらいなら持つ。

「待て!」

速い。
流石のブラッドも、このスピードに間に合わないと感じたのか声を上げた。
だが、待たない。誰が待つものか。
一気にブラッドとの距離が離れ、代わりに門が近づく。
今度こそ。
ルビィはこの門をくぐるのだ。
それもあのブラッドの前で。
ブラッドに、ハッキリと勝利宣言出来る。
門の向こうで笑ってやるんだ。
今まで散々苛められた仕返しだ。
それくらいしても許されるだろう。
ブラッドの魔術がルビィを追うが、それでもルビィの方が速さは上だ。

「あはは、これで―――」

あと一歩。
先ほどブラッドに邪魔された時と同じ位置に来た。
この一歩で、ルビィはこの学園とおさらばだ。
最後の一歩が、学園の敷地外に着こうとする。
その、あと、ほんのわずかだと言うのに―――。

まったく別の、妨害が入った。


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