猿に首輪(仮)

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「―――“トルマリン、放て、”」

ルビィの後ろ斜め右から仕掛けてきた生徒に電撃を放つ。

「―――“エメラルド、育て、”」

左から三人で襲いかかって来た生徒たちには急速に成長した木で拘束する。
理事長に退学届を提出してから約二時間後。
ルビィはまもなく学園の北門に到着しようとしていた。
予想以上に生徒が百ポイントを狙ってルビィを捕えようとしてきたが、全員返り討ちにした。
それにしても数が多すぎたので水で作り出したルビィの偽者を学園の至る所に放ち、かく乱させることで障害は減った。
今のところ“七ツ星”が動いたと情報は出ていない。
やはりルビィは“七ツ星”にも目障りな存在か。消えてくれるならば手出しはしてこないか。これはこれで好都合だが。
あとは学園から脱出するのみ。
さすがの理事長も学園を出たら追手を出すことは出来ない。
そこがゴール。ルビィの勝ちだ。
風の魔術で身体能力が大幅に向上していても、そもそもの基礎能力が貴族たちとははるかに違うのだ。ルビィは負けない。それだけの自信がある。
飛ぶように屋根を走り抜ける。
門に近づくにつれて生徒の数は減っていく。
遂に門を視界にとらえた。
すぐだ。
もうすぐだ。

(おじいちゃん、この勝負、あたしの勝ちだね)

いささか勝利を確信するには早いが、ルビィの気持ちは既に勝ち誇っていた。
庶民の自分を見下す貴族たちがいくら数でかかろうとも、ルビィの敵ではない。
きっと、ルビィが成功したら貴族たちは厄介者が居なくてって喜ぶだろう。
そして、このゲームに参加した貴族たちは庶民に負けたとして大層悔しがるだろう。

―――あぁ、笑いがこみ上げる。

悔しがる彼らを見てみたいが、だからこそルビィはこのゲームの勝者にならなければ。
油断は禁物。
未だ動かないヤツの存在が引っ掛かる。
それでも、最後の跳躍でルビィは北門の前に到着した。
あとはこの門をくぐるだけ。
それでルビィが勝者となる。
そうとなると、嫌な思い出ばっかりだったがこの学園も惜しく思えた。
おそらくこれが最後なのだから、ルビィは振り返って今まで疾走してきた学園を眺めた。
きちんと目に焼き付けよう。
息に乱れもない。
疲れも感じない。
呆気ないなと思いながら、最後の学園の姿を目に焼き付けて、ルビィは門をくぐった。


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