猿に首輪(仮)

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理事長が何かを言う前にルビィは理事長室を出た。引き止められると面倒だからだ。
ルビィは北の田舎の村の娘で相手は四大貴族の一つ、グリーンストーン家の当主。
身分は天と地の差だ。本来ならこんな風に会話を出来る相手ではない。

「……」

ここに来てから、ルビィは理事長にかなりお世話になった。
庶民を入学させるだけでも周囲の反発は強かったのに、ずっとルビィの味方でいてくれた。だからルビィをその恩を返そうと必死になって勉強した。
『理事長の目は偽物ではない』と周囲に知らしめるために。
お陰で“六ツ星”など、半年ではなれないようなランクにまで上り詰めた。
だけど、最高ランクの“七ツ星”だけはそう簡単にはいかない。
貴族ですらまず無理なランクに、庶民がなってしまうなど、貴族の面子の丸つぶれ。どんなにルビィが優秀でもなれないだろう。
だが、そのルビィのために理事長が苦労するのなら、その前に諦めてしまえば―――。
これ以上理事長に苦労をかけないで済む。
これもきっと一種の恩返しだ。
そう思ってルビィは退学届を提出した。

扉の向こうは静かだ。
何の音沙汰もない。
ルビィは左腕に付けたバングルを見た。
自分の努力の証。
白、赤、黄、緑、青、藍―――六色の宝石。
だけど、残り一色だけは手に入らない。
これが限界。
未練などない。
この半年で、ルビィは詰め込めるだけ魔術の知識を詰め込んだ。実力も付けた。
これだけあれば、村で生活するには不便しないだろう。いや、むしろプラスとなって村の皆の役に立つだろう。
別に、魔術師として大成したいわけじゃない。少しでも皆の役に立てたらそれでいいのだ。
だからこれで十分。

(お世話になりました)

ルビィは扉の前で深々と頭を下げた。
こんなにも長い時間頭を下げたことが無いほどに。

―――しかし。

静寂は、突如破られた。
扉の向こうで、理事長が何かしている。
ごそごそと、何かを探しているような音。
ルビィはすぐにその場を去るか様子を見守ろうか迷った。
だが、結論はすぐに決まった。

『敷地内にいる生徒諸君!』

「!?」

これは、校内放送だ。声はもちろん、扉の向こうにいる理事長本人。

『高等部一年Aクラス、ルビィ・ピジョンを捕まえて理事長室まで連れてきた者にポイントをやろう!一人につき百ポイントだ!!繰り返す―――』

(嘘!?)

そんなに自分は逸材なのか?
理事長にとってそんなに必要なのか?
気持ちは嬉しいが、これはまずい。
ルビィは駈け出した。
ここから学園を出るにはかなりの距離がある。
夏季休業中とはいえ、生徒は残っているのだ。
自身にかけられた百ポイント。
もしこれが別の誰かだったらルビィは絶対参加する。それだけの価値がある。百ポイントは魅力的すぎる。
まずい。
無事にこの学園から脱出出来るだろうか?
ルビィは走った。
生徒がその気になる前に、この学園から脱出しなければ。


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