猿に首輪(仮)

□序
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 序

「君は素晴らしい才能を持っているよ」

夏にしては涼しい日だったと思う。
夏が終わりに近いせいかもしれなかった。
その日は涼しくて、湿度もそんなに高くなくて、とても過ごしやすい日だった。
毎年訪れるお客に誘われて、新たに一人、村に訪れる人が増えた。
私にとって楽しみでもある村の一大行事の手伝いに追われている時に、一人の老人が声をかけてきたのだ。
どこからどう見ても貴族。
この地に招待された時点で、それは分かりきっていたことなのだが。
白髪が生えかけたその人は私を見るなり、背の低い私の目線にまで屈んでからそう言った。
そんな立派な服装でもない私をまっすぐ見られても恥ずかしい。
この年にしては背は低いし体型も子どもっぽい。
顔もとりわけ美人と言う訳でもないので、手の届かない貴族に面と向かって見られると、つい視線を逸らしてしまう。

「いきなりそんなこと言われても困るかな?でも、君は大成するする。それだけどの素質を秘めている」
「……素質?」

素質?
大成?
この人は何を言っているのだ?

「魔術だ。君は、立派な魔術師に成れるよ」

意味がわからない私に、貴族は説明を続けてくれた。
お陰で意味が分かったが、思わず鼻で笑ってしまいそうになった。
失礼にならないよう堪えて、返す。

「魔術なんて、貴族様しか使えないわ。私には無理よ」
「大丈夫。きちんと勉強したら、君は優秀な魔術師になれる。私が保証しよう」
「そんなこと言われても」
「私が理事をしている学園に来ないかい?そこで、魔術を勉強しないかい?」
「でも」
「アルマース様の愛し子(プシィ・キャット)を危険な目に遭わせる気はないよ。それに―――あぁいけない。名前を訊いていなかったね。私はデマントイド。デマントイド・グリーンストーンだ。可愛らしいお嬢さん、お名前を教えてくれるかい?」
「―――ルビィよ。ルビィ・ピジョン。こんな髪の毛なのに、紅玉なのあたし」


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