『メランコリーの扉を閉じて』



「好きな奴でも居るのか?」


本当に何でもない、他愛もない話だった。
何故そのような質問をされたのか、今となってはもうそれを思い出すことは私には出来ない。多分自然な流れだったように思うのだけれど、はっきりしたことは言えない。車での移動中の会話だったということしか覚えていない。

社長である彼、リーバー様がそう疑問に思っても仕方はないと思う。25歳を過ぎた女に、長く彼氏が居ない理由なんて多くはない。好きな人が居るか、前の彼氏が忘れられないか、本人がよっぽどの欠陥を待っているか。


「いいえ、今はそのような御方はいません」


私はリーバー様に幾つか嘘をついている。これが1つ目。嘘は仕方ないと思うの。
本当は好きな人が居て、それの所為で彼氏を作れない。そんなこと分かっている。それは分かっている。


「じゃあお前の眼鏡に適う奴が居ないだけか」


リーバー様は助手席でニヤリと笑った。


「そのようなことはございませんけど…」

「これだけ良い女なら普通男がほっておかない筈なんだがな」


其の時私は曖昧に笑うしか出来なかったように思う。

そんな話を、急に思い出した。忘れることは無かったのだけれど奥底にしまい込んでいた。
思い出したのは、きっと今ちょうど同じシチュエーションだからだ。それに今日は私の誕生日だった。だから少し感傷的になって思い出してしまったんだろう。
帰ったらべろべろに酔いたい。確か買い置きしてあったワインがある筈、空けてやる。記憶を無くすくらい、酔いたい。飲んでやる。


「今日、この後のご予定は、クリスタルホテルにて会食となっております」


私は自分の感傷を振り切る。


「りょーかい」


くぁ、とリーバー様は欠伸をした。
会食の相手は極秘らしく私も知らない。もしかしたら恋人、なのかもしれない。そういう想像をするから余計に感傷的になるんだ。彼が誰と食事をしようが、誰と関係を持とうが自分には関係のない話だ。
リーバー様もそういう相手が居てもおかしくないのだから、いちいち気にしちゃ駄目だ。
それなのに気が滅入る。


―好きな奴でも居るのか?


居ますよ。
私はあの時の真の答えを心の中で返した。


車がホテルのエントランス前に着いて私は車から降りて助手席のドアを開けた。


「21時頃にお迎えに上がります」


共に会食に参加することもあるしホテルの一室を借りて仕事しながら待つこともあるのだけれど、今日ばかりは一時でも帰宅したい。それくらいの我儘は許されるでしょう、だって今日は誕生日だ。食事の相手が誰であろうと今日はこのホテルに一人で居たくない。
ひどく感傷的だ。自覚出来てもそれを止める術を私は残念ながら持っていない。


「では、」

「何言ってる、今日はお前と一緒に食事だ」

「は?」

「お前誕生日だろう?」

「そうですが…、御存知だったんですか…」

「そりゃ知ってるさ、」リーバー様は私の手を取り、言う。「さ、行くぞ」



 * * *



「俺と付き合えよ」そう言って下さった貴方にずっと付いてゆきます。



―*―*―*―*―*―*―*―

なんか最後ぐだぐだ…。そして消化出来ず。


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