short/番外編

□日曜日
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※バレンタイン数日前
※自宅でチョコ作り。
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今の時代は、"友チョコ"だとか"逆チョコ"だとか更には自分へのチョコだとか…とりあえず誰彼構わずあげるのが流行りらしい。
「結構手間かかんだな…」
「そうですよー!もしかしてチョコ溶かして固めるだけかと思ってました?」
明るく返しながらも手を止めようとしない名前の横顔をぼんやり眺める日曜日。
「ぶっちゃけ…」
「もーっ。先生ってばいっぱいチョコもらうくせに愛情ってものをわかってなかったんですね」
ぷんすか怒るコイツの手には完全には固まっていないチョコレートと、目の前にはお皿だとかラップだとか色んなものが準備されてる。
「そういやこの前のもうまかったぞ」
「あ、本当ですか?良かったー」
バレンタイン当日は無理だから、と先駆けてもらったチーズケーキ。
「あれも手間かかんだろ」
「んー…慣れちゃえば平気です」
手作りのものをもらうのは初めてじゃないが、毎回もらう度にうまくなってるのはきっと贔屓目じゃないと思う。
「ソレはどうすんだ?」
「これですか?えと、来週バラまくやつですね」
「バラまく?」
名前の手でころころと丸くなるチョコレート。小さく形付いたソイツをココアの粉が乗った皿に転がせばこれでトリュフの完成らしい。
「クラスの子たちと持ち合おうねって話してて、」
きっとバレンタイン当日はどこの教室もチョコレートの匂いが漂うことになるんだろうか。
「俺は知らねぇフりしとくぞ」
「えー、そんなこと言わないで味方になってくださいよ」
俺たちがどれだけ駄目だと言っても毎年持ってくるやつが絶えないのは
「片倉サンにもあんのか?」
「もちろんです!むしろ、片倉先生へは必須なんで」
こいつらにとってこの日は1年の中でも1、2を争うぐらい大きな行事ってことなんだろう。
「それもうまそうだな」
「んー…先生には甘いですよ?」
ミルクチョコだし、と笑みを浮かべる名前の横顔。そういえばコイツはいつのまに俺の好みを把握したんだとぼんやり思う
「構わねぇよ」
「へ?」
「お前が作ってんだ、味見させろ」
確かに甘いものは得意じゃない。だけど
「はい」
「ん」
彼女が作ったものはそれだけで特別。近くに立った俺に戸惑いながらも名前はチョコを一つ摘みあげ「どうぞ」と俺の口元にその指先を近づけた
「うひゃあっ」
「うん、うめぇな」
彼女の指に摘まれたソレをぱくりと口に含むと、ついでとばかりに彼女の指も味見する。
「もう…なにするんですか」
「でも甘ぇ」
口の中に広がる甘ったるい味に自然と眉間にシワを寄せれば「…だから言ったじゃないですか」と名前は赤くなった顔をぷい、と俺から背けてしまった。
「…変わんねぇな」
去年と変わらず照れた様子を見せる彼女に、思わずくすりと笑みがこぼれる。ただ、去年と違うのは
「…先生が悪いんです」
「つーかお前は味見したか?」
「あ、いえ」
ここが"学校"ではなく誰にも邪魔されない彼女の家で、
「"味見"ぐらいしろよ」
「…うん」
チョコレート並みに甘ったるくなっていくこの空気を、俺まで心地良いと感じるようになっていたことだった。

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なんだかんだと言いながらちゅっちゅしてれば良いんだよ←


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