short/番外編

□孔雀草
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【孔雀草】
※3つのお題企画提出作品
※お題:元就・忍び・戦国(切甘)
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しくじった、つもりなんて更々なかった。むしろ自分にしてはうまくやってた方だと思う。だけど、油断したと言えば…否定はできない。
"あの男の動きが気になる"元就様が私直々に声を掛けて下さったのは初めてだった。その他大勢である自分に声を掛けてくれるなんて何か期待して下さっているのか、はたまた只の気まぐれなのかそれはわからなかったけど、こんな小さなことで冷静さを欠いてしまうなんて、やっぱり私に忍は向いていないのかもしれない。

「…よう」
じゃり、という音がしたと思えば、どかりと目の前に腰を降ろした大きな体躯。コイツが元就様がよく口にしていた"長曾我部"だ。と気づいたのは捕らえられてしばらくしてからだった。元就様の言葉からとてつもない大男を想像していたけど、もともと線の細い我が城主から見れば確かに大柄で野蛮な男に見える。
「もう、二晩だ」
陽の入らないこの場所は、今が朝なのか晩なのかなんてわからない。薄暗い中でわかるのは、コイツの特徴でもある黒ではない髪色と、大きく隠された左眼、そしてその分まで光を宿す右眼だけ。
「ヤツの考えてることは相変わらずわからねぇが」
「…」
「お前の為に、迎えを寄越さねぇことぐらいはわかるぞ」
コイツは私の縄を解くわけでもなく拷問にかけることもしないまま、淡々と言葉をつないでいく。
「言われなくとも…元就様のお役に立てない事は"死"と同じだと教えられている」
精一杯の虚勢。どうせなら今すぐにでも殺して欲しかった。私が請け負った任務はただの偵察で、何もコイツが欲しがりそうな情報も理由ももっていない。
「お前は…飼い主に従順な"犬"だな」
ぽつりと投げられた言葉は間違った例えじゃない。私にとって元就様の言葉が全てで元就様の命令は絶対なんだ。
「それは最高の褒め言葉だ」
「…そうか、」
このまま、何もされないまま終わりなんて、そんな旨い話があるわけがない。
「じゃあ、」
「っ!」
じゃり、と言う音が大きく響く。
「"飼い主に捨てられた"お前はどうなるんだ?」
目の前の男の気配が動き、いよいよ拷問でもされるのかと思って覚悟を決める。…だけど、降ってきたのは痛みでも熱でもなく、がさついた手の平が私の頬をそして首の後ろをゆるゆると撫でていく感触だった。
「…、ッ」
「なんだ、お前オンナの顔も出来るんじゃねぇか」
「っこの…!」
予想外の行動に体が一気に硬直する。かあっと顔に熱が集まり、体中から嫌な汗が噴出してくる。暗闇に二日間。視界に移るのは闇ばかりで、後ろ手に縛られ更には足も自由が利かない状態で抵抗らしい抵抗も出来やしない。
「まぁそう暴れんなよ」
くつくつと喉の奥で笑う声が耳のすぐ近くで響く。
「煩い…っ!さっさと殺せ!」
「待てって、俺はオンナが泣く姿は好きじゃねぇんだ」
「このっ」
「あぁなんだ、」
「…ひ、ぁ…っ」
「お前"痛い事"でも想像してたのか?」
耳に落ちるぬるりとした舌の感触と欲情した男の声。やっぱり、策士だなんだと言われる元就様の言葉はいつでも正しかったらしい。
(長曾我部は"鬼"ぞ)
私もいよいよ鬼に喰われるのかなんて冷静に考えた思考回路は、ちくりと肌に歯を立てられた痛みと共に目の前の鬼によって少しずつかき消されていった。

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栄花管理人、ひおんさんとこの"3つのお題による企画"に提出してみたお話…。
そしてジーニアス+管理人の一ノ瀬さん、お題すべてにおいてクリアできてません。←あぁもうリハビリがんばります…(ウワァァァン…ッ)



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