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□今、流行りの
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例えば、全ての偶然が重なったとして
・・・・・

教室の出入り口の近くでクラスの女の子がきゃっきゃと話に花を咲かせている。もちろんそれは今が休み時間である以上良く目にする光景。
「なに盛り上がってんだ?」
そして、そこに次の授業を担当する先生が話し掛けて
「あ!先生ぐらいの背があれば完璧だよね!」
「先生ぐらいってなかなかいないよー」
「…人をネタに何話してんだよ」
そのまま談笑が始まってしまうのも珍しくない光景である。

「(は…入れない…)」
だけど、先生のすぐ後ろにいた私は足を止めてしまった先生のおかげで教室に入るタイミングを完全に失ってしまったのは、ただ…運がなかっただけだと思う。
「昨日ドラマでやってたんだけどさ」
「壁ドンっなかなか現実に出来る人いないよねって話ししてて」
「"壁ドン"?」
「(…これ、私が後ろにいるの全然気付いてないよねー…)」
授業が始まるまであと二分くらいだろうか、いつも時間に余裕をもって教室に来る先生だから生徒と少し話をしても授業には全く支障が無い。このままチャイムが鳴るまで話しが終わるのを待つよりも「すみません」と一声掛けて先生のすぐ脇をすり抜ける方が得策な気もする。
「男子じゃ無理だけど、先生ぐらいの身長があれば、絶対画になると思うんだよね」
「確かに!フツーの男じゃあれは出来ないよ」
「へぇー」
「…す、すみませーん…後ろ通りまーす…」
言うなればコソコソ。先生がクラスの女の子と話してるすぐ脇をコソコソと抜ける。ただそれだけの予定だった。

「わ…っ!」
「それって、こんな感じか?」
だけど、突然ぐいっと引かれた二の腕に、強くは無いが背中に感じた思わず目を閉じてしまうぐらいの衝撃。それから、先生の行動に驚いたような女の子たちの声が耳に入る。
…恐る恐る目を開ければ目の前にあるのは先生のシャツの胸元で、ゆっくりと辿るように視線を上げれば
「まあ、追い込んでる感じはするな」
にんまりと悪戯が成功したかのように笑みを浮かべた先生が私を見下ろしていた。

「やば…!ちょ…っ、やばい!やっぱり先生、画になるよ!」
「名字さん大丈夫?!てか顔真っ赤!かわいー!」
一体何をしてくれてるんだこのオトコは。軽くパニックになりながら慌てて逃げ出そうとするも、顔のすぐ横につかれた先生の手と目の前にある体、そして何より背中に当たる壁がここから逃げ出すことを出来なくさせていた。
「あのっ、ちょ…っ!なにするんですかぁ…っっ!」
「いや、ちょうどソコにいたしよ」
「先生ヒドーい!でも名字さんかわいー!」

きゃっきゃと更に盛り上がる女の子たちを後目に、ようやく響いたチャイムの音。
「ほら、鳴ったぞ。そろそろお前らも席につけ。名字も、驚かせて悪かったな」
先程とは打って変わり、人懐っこい笑みを浮かべた先生はぽん、と私の頭に手を置くとあっさりと体を解放してくれた。ぱたぱたと席につくクラスメートに紛れ、自分も席につくが
「(び…びっくりした…)」
ばくばくとしたままの心臓は、もうしばらくは落ち着きそうになかった。



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こんな教師はすぐに捕まる←




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