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□渡り廊下
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好きじゃないけど苦手じゃない。

何がって「料理」の話。本日の調理実習は我ながらうまく出来たと思う。お菓子なんてこれまでの人生で1、2度しか作ったことはないけどお菓子作りのうまい子と細かい作り方が載った教科書が揃えばあとは何も心配いらない。一人二個ずつね、という友人の声にラッピングだけは張り切ってお手伝いさせてもらった。

「昼からなんだっけ?」
「えっとねぇ確か日本史だったよ」
調理実習のあとはすぐにお昼休み。出来たてのカップケーキはお弁当のあとのお楽しみとして友人と2人のんびりと教室へ向かっていた。
「あ」
「どしたの?」
ふと、渡り廊下で友人が足を止める。彼女の視線の先、渡り廊下から見える中庭には
「せーんせー!」
「(あ…)」
煙草片手に談笑する伊達先生と長曾我部先生の姿があった。
「What?実習か?」
「そうなんです!カップケーキ作ったんですよ」
そういえば彼女は伊達先生に夢中だったっけ?近くにきてくれた伊達先生に人懐っこい笑みを浮かべて実習のことを報告する姿はまるで子犬のよう。伊達先生が「ちゃんと聞いてやるから落ち着け」と口に出すぐらいだからよっぽどだ。
「先生は甘いの平気?」
「食べて欲しいって素直に言えたらもらってやるぜ」
そう言う伊達先生に「じゃあこれ食べて下さい!」とカップケーキを一つ渡し満足そうに微笑む友人。そのやり取りすぐ横で見ていれば「名字、俺のは?」と同じように伊達先生の横でやり取りを見ていた長曾我部先生が私の反応を伺っていた。
「え、先生、甘いの好きなんですか?」
「何言ってんだ。手作りってのが良いんだろ」
全く、この先生方は…。こういう言葉をさらっと口にするから経験値の浅いコドモは他の同級生に見向きもしなくなると言うのに。
「じゃあ…イッコどうぞ」
「おぅ。ありがとよ」
持っていた一つを渡せばニカリと浮かべる眩しい笑み。そうか、これも先生の魅力の一つなのか。

何気なく渡した手作りのカップケーキ。あの後、「もうもらったから」と手作りを持ってきた女の子を次々に断っていたなんて、私がそれを知る由もなかった。



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