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□偶然と思っているのは君だけ
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目標は、1日1回。

「おはよう、水戸くん」
「おー名字さん、おはよー」

あくまでも自然に、あくまでもさりげなく、水戸くんと会話をすること。

(・・・よし、今日も話せた・・・!)


ふとしたことで水戸くんを観察し始めてから、惹かれるまでそんなに時間はかからなかった。
桜木くんたちを見守る姿や、思いっきり笑う顔。授業の時のつまらなそうな表情や眠そうな雰囲気。
もっと色々見てみたいとは思うけど、彼にしてみれば私はただクラスが同じだけの存在で、これ以上積極的になにか行動を起こすにはまだまだ距離がある。


そんな中で行われた席替えという運任せ必須な一大イベント。

「(・・・うそ)」
「お、名字さんだ。今日からよろしくねー」

「あ、うん、よろしく、ね!」

神サマ仏サマあと私の今日の運勢、本当にありがとう。今日から私は風邪もひかないし遅刻も早退も、それから忘れ物も絶対にしません。


「名字さん、前見える?」
「あ、うん。見えるよ」

「そか、でも見えないときは言ってね」

すぐ寝るからさ、なんて笑顔で話しかけてくれる水戸くんが

「あはは、水戸くんが寝たら私が丸見えになっちゃうから起きてて欲しいな」
「えー、名字さんならあてられても大丈夫でしょ」

すぐ目の前にいるなんて。

一番窓側の列で、前に水戸くん後ろに私。水戸くん以外の周りのヒトは更にあまり喋ったことがないから、水戸くんはすでに体の向きもかえて私と話してくれる空気になっている。

「じゃあ数学だけは起きててほしい、な・・・」
「数学苦手?」

「うん。」
「そうなんだ。名字さん何でも得意かと思ってた」

そんなことないよー、なんてちゃんと自然に答えられているのだろうか。1日1回を目標にしてた水戸くんとの会話も、もうすでに何日分を話しているんだろう。
授業が始まれば表情は見えなくなるけど、これから毎日、水戸くんの後ろ姿を存分に眺めることが出来るなんて一体なんのご褒美なのか。

「んじゃ、俺数学だけ頑張るかなー」
「「だけ」なんだ」

まだ教室の中はざわついているから、何気なく話をしてても誰も私たちを気にしていない。あの水戸くんと、これまでそんなに仲良くもなかった一般女子が会話をしてるなんて、普段じゃ何か噂の一つや二つ流れてもおかしくない状況なのに。


「そうだよ、名字さんのために頑張るの」
「、」

つーか教科書とか持ってきてねーや。なんて軽く笑いながら「私のため」だなんてさらりと言っちゃう水戸くんに心拍数が少しずつあがっていく。

「じゃ・・・あ、私があてられたら助けてね」
「まかせといてよ」

「さ!そろそろ前向けよー!」

教室に響いた担任の声。「へいへい」と言いながら水戸くんも体を前へと向ける。もう少しこの時間が続いて欲しかったけど、これ以上続いたら「普通に会話」なんてきっと出来なかったと思う。

(あー・・・もー・・・色々やばいー・・・)

頭の中はまだパニックだし心拍数もあまり落ちついていないけど、とりあえず周りのヒトには気付かれないように、と静かに深呼吸を繰り返した。


(「近い席にあたったら交換してくれ」って、実は頼んでたんだ)


 

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