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□黄
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小さな自転車が少しずつ近付いてくる。輪郭がはっきりするにつれて弛むスピードと規則的に弾んだ息遣い。

朝日が登った少しあと、私の1日はスタートする。住宅街から市街地に入る少し手前の小さな花屋が私の店だ。

夢だった自分の店を持って1年と少し。自分で切り盛りすることにも少しずつ慣れ、食べていけるぐらいにはなったと思う。

ガコン、

響いたのはお店の横にある自動販売機。細いフレームにハートマークがデザインされた自転車、それに乗った男の子がこれまた細い腕を伸ばしてペットボトルを取り出していた。

「おはようございます」
「、…はよ」

毎朝会う無口な男の子。目が大きくて背も高い。
私の余裕が出てきた半年ほど前、初めて声を掛けたら少し驚かせてしまったのか「ピ…ッ!」と小さく声を上げ走り去られてしまった。だけどそれがなんだか可愛いくてついつい吹き出してしまったのも良い思い出だ。

自転車で走り出すとすごく速い、そんな男の子はこの自販機を休憩所にしているのか、それからも毎日顔を合わせている。人見知りかぁと思いながらも毎朝挨拶をしていればいつのまにか返事もしてくれるようになった。

(…水と、鉢…、と、あぁ今日はアレンジの受け取りがあったっけ…)

頭の中で今日の段取りを組みながら品物を出していく。並べるのではなく、あくまで開店前の下準備。冷蔵庫から出してきた切り花をチェックをしながらアレンジ用も同時に見繕う。

「…きれいやね」
「へっ?!」

ひとりで考えこんでいたからすっかり忘れていた。自転車に跨り、ドリンクを片手にこちらをじーっと見る男の子。こちら…と言っても見ているのは私の手元にある鮮やかな黄色いガーベラ。

「ボク、その色好きや」

男の子の低すぎない声が朝の空気に馴染んで溶ける。表情が大きくかわったわけではないが大きな瞳がほんの少しだけ細められ、綺麗に咲いた手の中の黄色へと視線を移した。

「よし、じゃあコレにしようかな」
「ファ?」

私の返答にきょとんとする男の子。アレンジ用のどれにするか迷ってたの、とにこりと笑って付け加えれば目を反らしながら「さよか」と小さく返ってきた。そんな彼の反応に自然と笑みが浮かぶ。

「気をつけてね」
「…」

カチャと自転車のペダルに足が掛かりそのまま漕ぎ出した彼に声をかける。ほんの少し後ろ姿を眺めればあっという間にその背は見えなくなった。

(さぁ準備…!)

彼に褒められた黄色いガーベラはもうしばらくバケツの中へ。ひと段落したらキレイに飾り付けてあげなくては




きいろ:親しみをこめて


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